中国は、古代から近世にいたるまで、つねに日本をリードしてきたアジアの先進国でした。その日本は、明治維新以降、ヨーロッパに目を向け始めます。しかしそれでもなお、日本人の心から中国への憧憬や愛着をぬぐい去ることはできませんでした。 大正時代、日本で中国趣味がわきおこります。芥川龍之介や谷崎潤一郎らが中国をテーマにした小説を次々に発表します。同じように、美術でも中国ブームがあらわれました。油彩画の世界では、藤島武二が中国服を着た女性像を描き始めます。ツーリズムの発達によって渡航しやすくなったことから、児島虎次郎や三岸好太郎、藤田嗣治、梅原龍三郎らは、中国を実際に訪れて題材を見つけました。一方、興味深いことに、藤島や岸田劉生、安井曾太郎らは、日本にいて、日本女性に中国服を着せて描きます。そこには、ヨーロッパから学んだ油彩技法を用いて、日本人が描くべき題材を求め、東西文化の融合をめざした到達点の一