ある女性が亡くなった。 死因は乳癌、30台半ばの死だった。 その一年半前、女性とその夫は二人の間に子供ができたことを喜んでいた。 お腹の中で胎児がスクスクと育っていることを実感し、幸せな日々を送っていたことだろう。 そんなある日、女性は胸の異変に気づいた。 念のために病院で検査。 そこでの診断は乳癌。 しかも、かなりの悪性。 軽率な表現になるが、まさに「天国から地獄」と言ったものだっただろう。 医師と夫婦は悩んだ。 抗がん剤の投与は胎児に悪影響がでる。 しかし、このまま放っておけば、出産まで命が保てるかどうか分からない。 そんな苦悩から出された結論は、最小限の投薬を行いながら、胎児の成長を待つ。 そして、帝王切開で出産の後、本格的な癌治療を開始するというものだった。 「身体が病むことより、子供が病むことの方が恐い」 女性は、そんな生き方をみせた。 癌細胞の拡大転移より早い胎児の成長を、命が