地中海世界の〈道具〉20:ウードとリーシャ /松田 嘉子 アラブ諸国をはじめトルコ,ギリシアなど地中海を囲む広大な地域で用いられる,アラブ古典音楽の代表的な弦楽器ウード。短い棹と大きく折れ曲がった糸倉,膨らんだ胴といった形状を持ち,表面板の響孔には透かし彫りの装飾をほどこすのが伝統的。フレットのない指板には複弦(1コースを同じ音程で2本ずつ)を張る。 ウマイア朝やアッバース朝の宮廷で,ウードは歌の伴奏や合奏だけでなく,音楽楽理を研究する際の基準の楽器として用いられ,ウード奏者は演奏家としても音楽理論家としても活躍した。アンダルス(イベリア半島)を経てヨーロッパに伝えられ,リュートの原型となる。 ウードは時代とともに変化し,地域ごとの音楽の特性や違いを反映しながら現代まで絶えず使われてきた。膨らんだ背面は12~20枚の細長いクルミ材やカエデ材を寄せ木で作り,指板には黒檀,表面板には白木など実