白川静先生の講演会を一度聴くとみんな大フアンになる。60年に亘る漢字研究は、古代漢字が出来る前の時代にまで遡り、夢と浪漫を与えてくれるとともに、人間の心の在り方の原点を示してくれる。 孔子様とお話ができる ―ところで、先生は『論語』もお好きだと伺っています。 白川 孔子様は時々いい言葉を使うておられる。あの『論語』の中に、孫弟子たちの言葉がたくさんありますがね、孔子の言葉だけは、読んでおると響きが違う。 ―孔子の言葉だけが響きが違う?先生は孔子の言葉がどれかというのがわかるんですか? 白川 ああ、わかる。これは確かに孔子の言葉、これは孔子の言葉を受けて、再伝の弟子ぐらいが書いとる言葉だとか、それはわかる。 ―そういえば、先生は「狂狷(きょうけん)の徒たれ」と言われていますね。 白川 それは孔子様が言っていることに、ぼくが賛同しとるわけです。孔子様はこう言っとる。「人間というものは中庸を得た