朝鮮半島や中国では現在でも犬を食べる風習がある。それを野蛮だと思う日本人はけっして少なくないはずだ。だが、同じ東アジアに属する日本でも、かつては犬が食べられていた。その事実を伝える文献は少ないものの、江戸時代の武家屋敷など中世から近世にかけての遺跡からは、刃物の傷のついた犬の骨が数多く出土し、人間が食べたものと考えられているという(松井章「日本の食犬文化」『週刊朝日百科 動物たちの地球128』)。 そうした風習がなくなってしまったのはなぜか。どうやらそれには、江戸幕府5代将軍・徳川綱吉のあの有名な「生類憐みの令」が大きく影響しているらしい。 もっともこれは、そうした名前のまとまった幕令があったわけではなく、1685(貞享2)年以来、元禄年間を通じて綱吉が出した一連の「お触れ」をのちに総じて名づけたものだ。歴史学者・塚本学の『生類をめぐる政治』によれば、こうした政策には、下級武士たちによる食