今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。 著者の網野善彦氏(故人)と言えば、中世日本における商人や職人、遍歴する宗教者等の非農業民の役割の大きさに光を当て、日本中世史研究に大きな足跡を遺した人物であり、同時に当該分野に係る様々な文庫や新書を通じて一般にも馴染みの深い研究者であった。 本書もそうした一般向けに著された作品群の一つであり、内容は「都市と宗教と「資本主義」」という副題が示す通り、時宗や浄土真宗、法華宗といった所謂「鎌倉新仏教」が京や鎌倉等の都市住民を中心に大きな訴求力を持ったこと、そして、その創始者や担い手が同時に金融や交易に大きく関与して中世日本における「資本主義」の確立に大きな影響を与えていたことを明らかにするものとなっている。 そこに聖と賤といった価値観の動揺、東国と西国との相違、マージナルマンの問題が絡んできて非常に知的好奇心を刺激される仕上がりとなっているのだ