山西省の自宅からオンライン取材に応じた劉さんは普段着の黒シャツ姿で画面に現れ、とつとつと話し始めた。奇想天外なストーリーで世界中の読者を魅了する大作家のイメージと裏腹に、どこにでもいる近所のおじさんといったたたずまいだ。 リモートで取材に応じる劉慈欣さん=2022年9月、目黒隆行撮影 1963年に北京で生まれ、3歳の時に父親の仕事の関係で炭鉱町の山西省陽泉市に移り住んだ。物心ついたころは文化大革命の真っただ中。陽泉市は武力闘争が激しかった街で「外で銃声が聞こえ、家から出してもらえなかった」と振り返る。 そんな不穏な時代、小学生だった劉さんは父親が箱に入れてベッドの下にこっそり隠していたフランスの作家ジュール・ヴェルヌのSF小説「地底旅行」を見つけた。文革期は外国の文学は所持することさえ危うかった。 それでも劉さんはむさぼるように読んだ。「当時はSFという概念すらなかった。父に教えられるまで
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