■リアリズム踏まえた理想主義 坂本義和は論壇における理想主義的国際政治論の雄として名高い。軍縮と平和を説き、現実主義者と激しい論争を繰り広げた坂本は、戦後日本の平和論の象徴的存在と通常は理解されている。10月7日付の本紙に掲載された訃報(ふほう)には、坂本の議論の賛同者も批判者も、それぞれに深い感慨を持ったことだろう。 だが、今日改めて坂本の著作を振り返ったとき、それらは単純に理想主義的な議論として一括(ひとくく)りにはできないことに気づく。坂本が最初に手がけたのは、近代保守主義の代表的思想家であるバークのフランス革命観を中心とした思想史研究だった。イデオロギーと権力政治が交錯する点で、フランス革命と冷戦は重なりを持っている。過去の優れた保守主義の思想を知ることで現在の自分の位置を見定めることが、坂本の出発点だった。未完のこの助手論文に晩年手を入れて完成した『国際政治と保守思想』には、ウィ