ブックマーク / book.asahi.com (16)

  • 「ケアリング・デモクラシー」 他者に応える活動全てを視野に 朝日新聞書評から|好書好日

    ケアリング・デモクラシー: 市場、平等、正義 著者:ジョアン・C・トロント 出版社:勁草書房 ジャンル:女性学 「ケアリング・デモクラシー」 [著]ジョアン・C・トロント 育児をはじめとするケア労働の負担は女性に大きく偏ってきた。これに対して、ベビーシッターなどのサービス市場も拡大している。だが、それでよいのか。書はフェミニズムの視点から、ケアを市場に任せるのではなく民主主義の問題として取り組むべきだと論じる。2013年にアメリカで公刊された書は、近年の民主主義論の中でも特に大きな注目を集めてきた。 書の特徴は、ケアの定義の広さだろう。そこには他者と関係を結び、そのニーズに応える活動が全て含まれる。人間は互いに依存する存在であり、ケアなくして社会は維持できない。住民のため火災を消火する消防士も、家族のために働く会社員も、実はケアを行っているのだ。 ところが、このことが今日では見失われ

    「ケアリング・デモクラシー」 他者に応える活動全てを視野に 朝日新聞書評から|好書好日
  • 「自由の命運」書評 支援と監視のたゆまぬ努力説く|好書好日

    自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 上 著者:ダロン・アセモグル 出版社:早川書房 ジャンル:経済 自由の命運(上・下) 国家、社会、そして狭い回廊 [著]ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン リベラル・デモクラシーと市場経済こそが長期的な経済成長を可能にする。逆に、限られたエリートに権力と富が集中する収奪的な制度は、必ずや停滞と貧困につながる。このことを、明晰な経済理論と豊富な事例によって論証したのが、アセモグルとロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』である。 このが世界的な話題を呼んでからはや数年、世界ではリベラル・デモクラシーへの不信が急速に拡大した。中国など、独裁的集権体制の下でも経済は発展するのではないか。このような変化を受けて刊行されたのが書である。中国経済の今後に疑問を呈するなど、コンビの鋭鋒は衰えを見せないが、分析の手法はやや変化が見られる。 個人の自由を

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  • 複数の声が溶けあわずにある バフチン「ドストエフスキーの詩学」|好書好日

    Mikhail Mikhailovich Bakhtin(1895~1975)。ロシアの文芸学者 大澤真幸が読む 文学史上最も偉大な小説家の一人ドストエフスキー。彼の詩学(芸術理念)の特徴は、ポリフォニー(多声音楽)に喩(たと)えられる創作手法にある。ロシアの文芸学者バフチンはそう論じた。 ここで「ポリフォニー」は、小説の中に含まれるあまたの意識や声がひとつに溶け合うことなく、それぞれれっきとした価値をもち、各自の独自性を保っている状態である。普通の小説では、複数の個性や運命が単一の作者の意識の中に組み込まれ、その中で展開する。しかしドストエフスキーの小説には、すべての意識をまとめる作者の観点がない。作者の声を託された登場人物も、他の人物に対して優越しているわけでも、特権的な立場にあるわけでもない。 ポリフォニー性がはっきりと現れるのは、もちろん、論争のときである。だが逆の同意の場面にさえ

    複数の声が溶けあわずにある バフチン「ドストエフスキーの詩学」|好書好日
  • 人生を振り返ることについて:私の謎 柄谷行人回想録①|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 批評家・思想家の柄谷行人さんは、多摩丘陵の自然のなかで暮らしている 書籍情報はこちら ――常々「忘れっぽい」「書いたら忘れる」と公言されている柄谷さんに、生まれてから現在までのこと、まだ書いていないことをお聞きしておきたいということで、連続インタビューをお願いしました。実は、『世界史の構造』(岩波書店)が2010年に刊行された後、朝日新聞から同じようなお話を頼んだときは、結局お断りになったと聞いています。 柄谷 最初はやってもいいかなと思ったんですよ。でも、回顧には関心がないし、まだこれからやろうとしているのにと、考えが変わった。『世界史の構造』を書いてすぐは、「これで終わり」という感じもあった。だけど、違ってたね(笑) ――まだ自分の仕事は終わらない、半生を振り返るのはまだ早いという気持ちになったわけですね。 柄谷 そうです。そういう意味では、今も難しい。だけど、

    人生を振り返ることについて:私の謎 柄谷行人回想録①|じんぶん堂
  • 「21世紀の金融政策」書評 中央銀行の歩みと現在 簡明に|好書好日

    21世紀の金融政策 大インフレからコロナ危機までの教訓 著者:高遠裕子 出版社:日経BP日経済新聞出版 ジャンル:金融・通貨 「21世紀の金融政策」 [著]ベン・S・バーナンキ 中央銀行というのは考えてみれば不思議な存在だ。選挙で選ばれているわけでもないのに、金利の上げ下げで経済を動かし、人々の暮らしを左右する強大な権限を持つ。ノーベル賞経済学者にして、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のトップを務めた著者は、こう説明する。米国の議会は金融政策をFRBに委ねてきた。その理由は「私が自宅の配管の修理をプロに依頼するのと同じ」。 修理方法は詮索(せんさく)しないが、結果への説明責任は負ってもらう。中央銀行の独立性について簡にして要を得た記述であろう。書には金融のややこしさを解きほぐす言葉が満ちている。 1960年代から現在までのFRBの苦闘を描いたこのの中で、とりわけ生々し

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  • 「きしむ政治と科学」書評 耐えた専門家「主語」の粗さも|好書好日

    きしむ政治と科学 コロナ禍、尾身茂氏との対話 著者:尾身 茂 出版社:中央公論新社 ジャンル:社会・時事 「きしむ政治と科学」 [著]牧原出、坂上博 尾身茂氏は、コロナ禍の感染症対策分科会など政府の一連の会議で最も名が知られた専門家であろう。 著者らのインタビューに対し、言葉を選んではいるものの、まず伝わってくるのは、政府の無策に対する氏のもどかしい思いである。今回のような新興感染症による危機は、10年以上前から予想されていた。尾身氏ら専門家は検査・人員体制の強化などの報告書を政府に幾度も提言したが、訴えは十分に生かされず、コロナ禍は始まった。 尾身氏らは、準備がもとより不足であることを知りながら、使命感を支えに踏み込んだ発言を時に続ける。しかしそれが自分たちへの風当たりを強くし、氏には殺害予告も届く。 「我が国の危機管理体制は十分ではなかった」と2020年初夏の見解に記したら厚生労働省か

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  • 「データにのまれる経済学」書評 理屈と現実の間で揺れ動く学問|好書好日

    ISBN: 9784535540385 発売⽇: 2023/06/26 サイズ: 19cm/328,14p 「データにのまれる経済学」 [著]前田裕之 もともと経済や社会の仕組みを探求する経済学には、その理論を検証するデータが不足していた。ある地域の経済の活発さという基的な情報でさえ簡単に手に入らない状況では、研究は理論モデルの考察に偏る。英語が不得手な非英語圏研究者が活躍できるのは、数学を駆使する分野にさらに偏る。「理論家ニ非(アラ)ザレバ経済学者(ヒト)ニ非ズ」という「理論信仰」は、こと日では極端に強かった。それが最近大きく転換しており、書を読むとその変わりようを実感できる。 書が類書と異なるのは、研究者ではなくライターが執筆している点だ。日では研究者と一般をつなぐ層がどの分野でも薄い。必然的に、研究者が執筆した解説書が増え、自らがかかわる分野の紹介が多くなる。書は、研究と

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  • 「現代日本の消費分析」書評 家計に消費の平準化という特徴|好書好日

    「現代日の消費分析」 [著]宇南山卓 賃金に注目が集まる今日にあっても、ひとびとの生活を直接示すのはやはり消費だ。経済学創設とともに発展してきたこの分野で、国際的な貢献を重ねてきた著者が満を持して出版したのが書である。消費は「水準」の高低が議論されがちだが、その「変化」をみると、世帯がどれだけ安定した将来設計のうえで生活できているかがわかる。書は、定年退職金や年金など、ある程度予期できるまとまった収入を手にしたときの消費の反応を調べ、生活の安定性を検討した論考を中核に据える。そこで著者が得たのは、日の家計は「生涯を通じた消費の平準化ができている」という結論だ。 この結論は生活の評価だけではなく、経済政策の設計にも重要だ。消費を増やすには生涯所得を増やすしかなく、一時的な消費刺激策は、将来の増税で相殺されてしまい効果が期待できないからだ。書は最新のデータ事情解説も備え、日経済を考

    「現代日本の消費分析」書評 家計に消費の平準化という特徴|好書好日
  • 「セーフティネットと集団」書評 人と人の関係こそ「社会の核」に|好書好日

    「セーフティネットと集団」 [編]玄田有史+連合総合生活開発研究所 今やコロナ禍は一段落、労働市場は人手不足一色に塗りつぶされている。渦中にあった時の切迫感は、喉元(のどもと)過ぎればの言葉通り、忘れられつつはないだろうか。書は、このパンデミックに際し、日の安全網(セーフティネット)がどう機能し(なかっ)たのかを題材に、このような世間の風潮を静かに諫(いさ)めているように読める。様々な識者の論考に、経糸(たていと)として安全網の制度と機能の解説が、緯糸(よこいと)として現下生まれつつある新しい集団や人々のつながりが編み込まれている。そして繰り返し、私たちの生活の最後の砦(とりで)を築くには、国か個人かに丸投げせず、その中間の、人と人との関係を紡ぎだすことが大事だと教えてくれる。 前半ではコロナ禍の状況をデータで確認する。そこで明らかにされる、「第2のセーフティネット」の代表格たる求職者

    「セーフティネットと集団」書評 人と人の関係こそ「社会の核」に|好書好日
  • 「なぜ男女の賃金に格差があるのか」 仕事じたいの設計変更 判断を 朝日新聞書評から|好書好日

    なぜ男女の賃金に格差があるのか 女性の生き方の経済学 著者:クラウディア・ゴールディン 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:経済 「なぜ男女の賃金に格差があるのか」 [著]クラウディア・ゴールディン 女性というだけで、やりたかった仕事や生活をあきらめたことがある読者、身の回りにそういう女性がいたことがある読者は多いだろう。こんな体験は社会正義に悖(もと)るという考え方が広がってきてはいるものの、日の現状は厳しい。しかし、女性にとって厳しい現状は何も日だけの専売特許ではなく、市場経済の権化、世界経済の牽引(けんいん)車たる米国でも同様だ。つまり市場競争や経済成長が解決するという素朴な話ではない。 米国労働経済学・経済史学の碩学(せきがく)たる著者の、2014年の米国経済学会会長講演はこの問題に正面から取り組み、業界では知らぬ人がいないといってよいくらい有名になった。書は、この講演の材

    「なぜ男女の賃金に格差があるのか」 仕事じたいの設計変更 判断を 朝日新聞書評から|好書好日
  • 「アマルティア・セン回顧録」(上・下) 知的体験を後追い 理論を共有 朝日新聞書評から|好書好日

    アマルティア・セン回顧録 上 インドでの経験と経済学への目覚め 著者:アマルティア・セン 出版社:勁草書房 ジャンル:経済 「アマルティア・セン回顧録」(上・下) [著]アマルティア・セン 社会にとって何が望ましいか。この問いに答えるのは思いのほか難しい。どう決めるのかという手段の問題もあるが、そもそも決められるのか、という根的な問題があるからだ。 経済学で社会的選択理論と呼ばれるこの分野で決定的な研究を成し遂げ、1998年にアジア人ではじめてノーベル経済学賞を受賞したのが、書の著者、アマルティア・センである。今もって、欧米国籍を持たない同賞受賞者は、33年に生まれ、ダッカで育ったこの人だけで、20世紀のアジアを代表する知識人だといって過言ではない。書は、生い立ちから60年代にいったんデリー大学に戻るまでの前半生を人が回顧した記録である。かなり時間をかけて書き継がれてきたようだが、

    「アマルティア・セン回顧録」(上・下) 知的体験を後追い 理論を共有 朝日新聞書評から|好書好日
  • 柄谷行人さん『力と交換様式』インタビュー 絶望の先にある「希望」|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 柄谷行人さん 書籍情報はこちら 「これ以上ないところまで書いた」 柄谷さんは、四半世紀にわたって、〈交換〉から社会の歴史を見る仕事に取り組んできた。今作は、その〈交換様式〉がもたらす〈観念的な力〉に着目した到達点といえる一冊だ。 「私は、これ以上ないというところまで書きました。だから、今後どうすればいいんですか、なんてことを聞かないでもらいたい(笑)」 その仕事に取りかかったきっかけの一つは1991年のソビエト連邦崩壊だった。 「やはり、すごく大きな事件だったんですね。このとき、〈歴史の終焉〉ということが大々的に言われましたが、私は反対でした。なぜなら、何も終わっていなかったからです」 当時、米国の政治学者フランシス・フクヤマが、イデオロギーの対立は自由・民主主義の勝利に終わったという仮説を示して注目を集めた。根的な革命はもう起こらないとも言われた。しかし、柄谷さ

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  • 今あらためて『資本論』を読むために 「日本資本主義論争」早わかり|じんぶん堂

    記事:白水社 日の「近代化」と「豊かさ」をめぐる思索! 野原慎司著『戦後経済学史の群像 日主義はいかに捉えられたか』(白水社刊)は、内田義彦、大河内一男、高島善哉、小林昇、水田洋、伊東光晴という戦後経済学の巨人に即し、社会科学が輝いた時代を解明する。 書籍情報はこちら マルクスが捉えた資主義社会は、西欧とりわけイギリスをその十全な発展のモデルとしたものであり、日における資主義の現状にそのまま当てはまるかは疑義が残ることに気づいた知識人たちがいた。彼らは、日における資主義を改めて考えた。彼らが考え出した日主義の段階的発展の理論は、マルクス・レーニンに影響されつつも、日独自の理論展開であった。彼らの考えは論争となった。日社会は、どのような資主義社会であり、どのような段階にあるのかをめぐって、1920年代から30年代にかけて論争が交わされたのである。それが日

    今あらためて『資本論』を読むために 「日本資本主義論争」早わかり|じんぶん堂
  • 右派でも左派でもなく、ど真ん中の中道へ! ポール・コリアーが語る『新・資本主義論』|じんぶん堂

    記事:白水社 デジタル化が進む「グローバル社会」を生きるあらゆる世代に向けて、未来への指針を具体的に提示した野心作! ポール・コリアー著『新・資主義論──「見捨てない社会」を取り戻すために』(白水社刊)は、開発経済学の泰斗ならではの深い洞察をベースに、英国シェフィールドの労働者家庭に育った個人的体験も交じえつつ、資主義の倫理・道徳的側面にもとづいた「処方箋」の数々を平易な言葉で述べる。右翼でも左翼でもなく、ど真ん中の中道へようこそ。(Author Photo © John Cairns) 書籍情報はこちら 私のマニフェスト 資主義は多くの成果をあげてきたし、繁栄には欠かせない。だが資主義経済を過度に楽観視すべきではない。ただ市場の圧力や個人の利益の追求に頼っているだけでは、新たな3つの社会的分裂のどれも修復することはできない。「元気を出して、流れに乗ろうじゃないか」などという態度は

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  • 「人間に格はない」書評 弱者への共感、冷徹な分析で表現|好書好日

    人間に格はない 石川経夫と2000年代の労働市場 著者:玄田 有史 出版社:ミネルヴァ書房 ジャンル:社会・時事・政治・行政 人間に格はないー石川経夫と2000年代の労働市場 [著]玄田有史 書は労働経済学者である玄田氏による日の労働市場、特に1990年代から2000年代の非正規労働市場、あるいは無業者に関する分析である。根拠薄弱の論説が多い分野だが、書の最大の特徴は大規模なサンプル数を誇る「就業構造基調査」や著者中心に作成された新規のデータベースを用いた綿密な統計分析にある。 非正規労働者と一口に言ってもその中身は多様である。暗いイメージが付きまといがちだが、著者の大きな発見の一つは、非正規労働者でも数年程度の職場経験が正規化、あるいは年収増大のためにはっきりとプラスの影響があるという点である。一方、短期での転職を繰り返さざるを得ず、境遇の改善が難しい、あるいは無業化してしまう人

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  • インタビュー : 柄谷行人さん 古代ギリシャに希望の光 | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

    ソクラテスが広場に出たように柄谷行人はデモに行く。社会学者の大澤真幸がそう評した思想家・柄谷行人のギリシャ哲学論『哲学の起源』(岩波書店)がまとまった。希望が、ソクラテスの生きた古代ギリシャから現代に回帰してくる。 ――人類の社会史を生産様式でなく交換様式から見直した『世界史の構造』(2010年)の続編ですが、なぜ古代ギリシャを。 『世界史の構造』では普遍宗教の問題を取り上げたのですが、そのとき、それに匹敵する事件としてギリシャの哲学のことを考えていた。しかし、スペースの都合で書けなかったから、別のとして書いたのです。その際ヒントとなったのは、哲学者ハンナ・アーレントの指摘ですね。 ギリシャに「イソノミア」という言葉があります。同等者支配と訳されることが多いけど、アーレントは無支配(ノールール)と訳した。デモクラシー(民主主義)のクラシーは支配ですから、無支配はまるで異質です。デモクラシ

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