底本 『緑雨警語』 齋藤緑雨著・中野三敏編 1991年7月29日第1刷發行 1994年4月19日第3刷發行 冨山房・冨山房百科文庫41 初出 日刊新聞「讀賣新聞」明治32年6月21日〜8月4日 斎藤緑雨 (32.6.21) ○端なくもわが眼前口頭は、法の問ふ所となりぬ。正面と反面と、事の描写と理の表白と、わが文に於て殊に甚しく混読せられ、誤解せらる。われや黄口の一書生、字を知ること少きの罪か、将多きの罪か。全く知ることなからましかばと、今に及びて悔ゆるも詮無し。われら不文の徒、須く戒心を要す。 ○道徳を言ふ者、道徳の仮面を被る者、近時著しく増加したり。未然に言ふに非ず、既然に言ふ也。言ふ者奚ぞ恃むに足らん、被る者稍恃むべし。一国文化の増進は、この仮面あるがためなること、夙に歴史のわれらに諭示する所也。 ○何人も異議なき道徳の見解は、自身之を守るを必せず、他人之を守るを必すといふことに帰着す