博捜的思索の到達点 神崎繁様 あなたが亡くなってちょうど一年の日に遺稿集が刊行されました。生前に発表された2本の長大な論考に加えて、死の直前にまで手直しされていた原稿が、友人たちの編集を経て思索の現場を再現しています。あなたが63年の人生で到達された思考が、こうして美しい本になったのは、何より嬉(うれ)しいことです。 「忘却と制圧」という副題は、政治と哲学の臨界に挑むあなたの関心の終着点を示します。ギリシア哲学・古典学の最先端の研究でありながら、政治の現実、私たちの生きる現場に鋭く投げかけられる問い。古代ギリシアで初めて発せられたアムネスティー、「悪の記憶の禁止」―現在は「大赦」と訳されます―とは何か。それへの哲学者たちの言及や沈黙から、内乱や和解をめぐって思索が促されます。プラトン、ホッブズ、現代の間を行き来する論述は一見錯綜(さくそう)した迷宮のようですが、そこに浮かび上がる視野と問題