美濃加茂市のJR美濃太田駅にある駅弁店が三十一日で閉店する。中部地方の駅で唯一、ホームでの立ち売りを年中無休で続けてきたが、近年は列車の停車時間の短縮やコンビニ弁当などに押されて販売数が減り、店主も高齢に。多くのファンに惜しまれながら六十年の歴史に幕を閉じる。 名物「松茸(まつたけ)の釜飯」を並べた箱を首から下げ、列車が到着したホームをゆっくりと歩く。「どっからみえたの」。寄ってきた客に気さくに話し掛けながら、弁当を手際良く袋に入れる。「お客さんからいろんな話が聞けて面白かったよ」。仕出し業「向龍館(こうりゅうかん)」の二代目、酒向茂さん(75)は目を細めた。 茂さんの父、和男さんが駅弁の立ち売りを始めたのは一九五九(昭和三十四)年。昭和五十年代にかけて、同駅は木曽川の船下りなどに向かう人たちでにぎわい、地元特産のマツタケをふんだんに使った釜飯も一日に三百個、四百個と飛ぶように売れた。