<アキレスと亀>富豪の家に生まれた真知寿は、何不自由なく大好きな絵だけを描いて少年時代を過ごした。しかし、事業の失敗によって両親が自殺。一変して、過酷な環境に身を置かざるをえなくなった彼は、それでも画家になるという夢を捨てずに生きていた。そんな真知寿は、彼のよき理解者である幸子と出会い、結ばれる。 アキレスと亀とは、有名なゼノンのパラドックスのひとつで、足の速いアキレスは足の遅い亀に永遠に追いつけないという話だ。この映画は北野武監督が様々な矛盾と葛藤した上でできた1本だろう。『TAKESHIS'』『監督・ばんざい!』など、あまりに個人的でアート性の強かった前2作が酷評され、創作と興行の狭間で揺れた北野監督は、それらの形式を踏襲しながらも一般受けを考えて本作を撮った。 主人公の真知寿が監督自身を投影しているのは間違いない。周りを全く省みず、絵に没頭する様は、研ぎ澄まされた刃物のように観客の背