たとえば夏の入道雲を見てると、思わず涙がこぼれてしまうときがある。まぶしいからではない、思い出すからだ。あるいは、飛ばないカラスを見かけたときも。そう、観鈴スイッチだ(にははスイッチともいう)。the 1000th summer からずいぶん時間が経っているにもかかわらず、今でもふとしたはずみでスイッチが入る。 AIRの原作だと思い込んでいる「おもいでエマノン」を読んだときも一緒だった。地球の生命すべての記憶を持つ少女と、彼女に惹かれる少年たちがおりなす、せつない物語。ここでは、旅をするのは往人ではなく、観鈴のほう。記憶を保ったまま転生をくり返しているため、名は意味を成さない。だから自らを「エマノン」と名乗る――「エマノン」="EMANON" を逆読みすると "NONAME" 即ち "No Name"――この独白は今なお刺さる。 一番確かで、誰にも変えようがなく、感動させられるものは、その