人類の限界と到達点を体現するアートと宗教。 diatxt. 16 連載: アート・カウンターパンチ #8 山形浩生 さてこれで最後だ。最後だから、もう一つぼくの好きなアートの一つの形態について語っておこう。それはなんというか、衒学アートとでも言うべきものだ。 たとえば……そうだな、あなたは世界最速のサイコロ、というのをご存じだろうか。ロケットやF1に使われるチタン削りだし技術を使って作った、チタン製のただのサイコロだ。が、それは「ただの」サイコロじゃない。まずそれは、すさまじい精度で分子レベルまで計算されたものであり、その表面の平らさはそこらのサイコロなんかの比じゃない。表面のひずみは投げたときに乱流を生じ、空力特性が悪くなる。それがないこのサイコロは、そういう乱流による速度低下が生じないから最速なのだ。さらにサイコロは、各面に目が刻んであるでしょう。一の面には一つ、六の面には六つ、くぼみ