N 君へ N 君、書き出して、やはり N さんのほうがよかったかなと思っています。今年六十七になった私の半分ちょっとというあなたとの年齢差を考えれば、私から「君」付けでよばれても何のふしぎもないことなのでしょうが、何しろあなたは今をときめく日本洋画壇の超売れっ子画家、といって「 N 画伯」とか「 N 先生」とかよべばあなたが眉をしかめられるのはわかっていますから、ま、せいぜい「 N さん」あたりが一番落ちつきがよいかなと考えているのです。 とにかく、何年も前からあなたが、私の美術館に時々顔をみせてくださっていることを知ったときはびっくりしました。びっくりしたというより、まさか、といった気持ちでした。最初、館員の若い女性から「館長の不在中に○○さんがお見えになっている」ときいたとき、一瞬あなたと同姓の、今ではほとんど一線を退かれているある長老の評論家氏の名を思いうかべたほどなのです。まさかあ