堀 潤之 二つの国を往復して過ごした 恵まれた少年時代 1930年12月3日、開業医の父ポール=ジャンと母オディールの第二子としてパリの裕福なプロテスタント家庭に生まれたジャン=リュック・ゴダール は、何ひとつ不自由のない幸福な少年時代を過ごした。母方の祖父ジュリアン・モノーはパリ=オランダ銀行の設立者で、詩人ポール・ヴァレリーと付きあいの ある人物であり、レマン湖のフランス側に広大な地所を持っていた。ジャン=リュックの誕生後ほどなくして一家はレマン湖畔のスイス側にある町ニヨンに移 り、彼はスイスとフランスを行き来しながら、母からは読書全般への興味を、父からはドイツ・ロマン派への関心を植え付けられる。世間の荒波から守られてい た彼にとっては、第二次世界大戦もさほど重大な出来事ではなかった。家族はどちらかといえば親ヴィシー派であり、ゴダールの唯一の「レジスタンス」は、ブ ルターニュ地方にヴァ