たとえば日本の場合──建築のなかの人々 建築写真には人が写っていない、とよく言われる。職業的に撮影される竣工写真を別にしても、建築雑誌の作品紹介として撮影される写真では周到に人が排除されている。あるいは周到にセットアップされている。アメリカの建築写真家で《ケース・スタディ・ハウス No.22》の写真で名高いジュリウス・シュルマンが撮影の際、フラッシュ・照明の隠し場所、細々としたインテリアの位置から、人物たちの衣装や配置について指示を出していたことは繰り返し語られてきた。住宅は生活の舞台であり、人物のセットアップあるいは演出(mise en scène=舞台に上げる)は、建築芸術と舞台芸術が姉妹であった西洋建築の伝統に正しく棹さしているというべきだろう。 一方で、日本の建築写真において人物は嫌われた。木村伊兵衛・渡辺義雄、あるいは土門拳に代表されるリアリズムの地盤の堅固さをそこに認めても良い