「ひどくない?東京都の最低賃金て880円なんだって!」 駅のポスターで知ったらしい。麻美(アサミ)は文句をこぼしてきた。 愚痴る彼女は当時27歳。都心で複数店舗展開している中堅の古着屋でアルバイトをしていた。場所は杉並区高円寺、時給は870円。最低賃金を10円下回っていた。 しかも会社側が社保を負担しなくて良いギリギリの労働時間にシフトを制限されつつの最低賃金割れ。 今なら炎上しそうだが2014年当時はこんなんでも運営されていた会社がゴロゴロあった。 それでも麻美はいつか自分のお店を持つ夢を叶えるため、展示会の受付などの日雇いバイトを掛け持ちしながら頑張っていたのだ。 そして労働基準法の外側に置かれた彼女のパートナーは当時36歳。バツ2で無職。法どころか労働の外側にいた。僕のことだ。 世界一周から帰国したばかりで(とはいえ半年は経っていた)、特にやりたいことも無かったので恩人である先輩が経