(1)乱世・作家の誕生 堀田善術は日本文学の歴史のなかでたいへんにユニークな作家です。まず第一に、文学者とか作家というものはとりもなおさず小説家のことだという通念が支配的なこの国で、彼はけっして小説家という枠に納まりきれない作家であり文学者だという点で、ユニークです。第二に、その視野の広いことです。彼の関心は地理的には日本のなかに閉じこもらずにアジアからヨーロッパに及び、時間的には現在にかぎらず中世にまで及びます。第三に、モノとコトにたいするあくなき好奇心です。それが彼が旅行記や文明批評をたくさん書く理由でもありますが、同時にそれがかれの小説のフィクションを支えているものでもあります。しかもこのモノとコトは、自然主義の好む「日常の現実」とはまったく違ったもので、むしろ非日常性の狭間に姿を現わす奇異なものです。そのような一見、奇異に見えるものこそが、人間の本質を呈示すると彼は考えているようで