タグ

2008年3月25日のブックマーク (49件)

  • 「一冊の本を選ぶ」という切なさと、もどかしさ - 試作型思索と詩作

    「一冊のを選ぶ」という切なさと、もどかしさ 読書, 今日、数週間ぶりに行きつけの大型書店に寄ると、レイアウトや取り扱ってるがだいぶ変わっていた。 どの辺りが変わってるかな、と店内をブラブラしながら、いつものようにのタイトルを眺めて回った。 屋や図書館でたくさんのが見れることは贅沢だ、というような話を以前書いたけれど、贅沢を味わう幸せと同時に、切なさや、もどかしさのような、狂おしい感情が湧き上がってくる事が自分にはある。 「ここにある全てのが読んでみたい!もっと活字に溺れたい、もっと情報と物語に耽溺したい!」 しかし、自分の持つ時間や資金には限りが有るため、そんなことは不可能だ。 たくさんのを目の前にして、それが不可能であることを思うたびに、切なくて、もどかしくて仕方ない。 たくさんのの中から、何冊かを選ばなくてはいけない。 それが、自分には、かなしい。 読みたいが、ど

  • 面白い本だから読む、それで全然いいじゃない。 | ある編集者の気になるノート

    「昔は私も、”を読む”ということを難しく考えていたことがあった」(活字中毒R。) 昔は私も、”を読む”ということを難しく考えていたことがあった。読書は立派なこと、偉いこと、勉強なんだと構えていたからいけなかった。 今は私にとって、を読むのは音楽を聴いたり映画を見たりするのと同じである。文学的価値があろうがなかろうが、そんなことはどうでもいいことなのだ。売れていようと売れていまいと、まわりのひとが皆つまらないと言っても、自分さえ面白ければそれでいい。自分さえ夢中になれればそれでいいと思っている。 冊数だってそんなに重要なことじゃない。時々こんなに私はを読んでいると自慢する人もいるけれど、冊数をのばすだけなら誰でもやろうと思えばできることだ。その中で何冊心に響くがあったか、一冊でも人生を変えるようなに出会ったのか、その方がよっぽど重要なことだと思う。 *『そして私は一人になった』(

    面白い本だから読む、それで全然いいじゃない。 | ある編集者の気になるノート
  • すべての物語はあなたのためにある - イチニクス遊覧日記

    人力検索はてなで気になってた質問。 小説が好きな方、嫌いな方。 私は基的に小説というものを読みません。 理由は(1)表現が回りくどい。(2)ある程度読んでつまらないと思った作品だと、それまでの時間が無駄に感じる(3)立ち読みして面白そうなのか全く判断がつかず、買う(借りる)機会がないからです。 例外として、歴史小説・自叙伝・ノンフィクションといった事実に基づくもの(知的好奇心を充たしてくれる)、シドニーシェルダン(表現が簡単、すぐ読める、単純に面白い)は大好きです。 小説が好きな方、嫌いな方はこんな私をどう思いますか?(好きな方は上記(1)〜(3)の理由についてどう思われますか?) 又、小説を読むことでパーソナリティーに与えるものって何だと思われますか?(例えば感情表現が豊になる等) 最後に、「この一冊はお薦め」というのがあれば、是非、ご紹介願います。愚問ですいませんが。 http://

    すべての物語はあなたのためにある - イチニクス遊覧日記
  • これから読みたい世界十大小説(まであと1作) - イチニクス遊覧日記

    朝起きて、いろいろと考え事をしているうちに二度寝してしまい、目が覚めたのは昼近く。居間でゲームをしてる弟たちに、ちらっと参加したり、部屋に戻ってを読んだり、でもなんだか落ちつかないので、今日もまた、を売りに行く、という口実でを買いに行くことにした。 というのも、idiotapeさんの選ばれていた「after game over - 私家版世界十大小説」から、つらつら他の方々の十大小説も巡り、読んだ事ないのたくさんあるなあ…とか考えているうちに、読みたい気分が盛り上がってしまったのだった。こういう企画(?)はとても参考になるので嬉しいです。 そして、せっかく読みたいがたくさんできたので、以下、これから読みたい九大小説をメモしておこうと思う。(これから選ばれる人のを見て、増えるかもしれないのでとりあえず九作にしておきます) → 『トリストラム・シャンディ』/ローレンス・スターン 作者の

    これから読みたい世界十大小説(まであと1作) - イチニクス遊覧日記
  •  Reading Baton - イチニクス遊覧日記

    id:kissheeさんから頂きました。今度はのバトン。アンケート好きな好きとしては嬉しい質問。でもこういう好みって毎日のように少しずつ変動してるので難しい。 お気に入りのテキストサイト(ブログ) いろいろあり過ぎて困ります。有名な方であえてあげてみると、殊能将之さんのたんたんとした日記など楽しみに読んでます。というかテキストサイトの括りがよくわかりませんごめんなさい。 今読んでいる えーと平行してたくさん読む習性なので、とっちらかっているのですが、ティム・オブライエンの昔のと、森絵都さんの昔のと、いしいしんじさんの新しいのと、永井均さんの新しいの、。 好きな作家 全部書いたら切りがないので、各ジャンル5人しばりにしてみます。 日 武田百合子、安部公房、村上春樹、伊坂幸太郎、保坂和志 外国 トルーマン・カポーティ、ポール・オースター、フラナリー・オコナー、フォークナー、ガルシア・マ

     Reading Baton - イチニクス遊覧日記
  •  本好きさんに50冊の質問 - イチニクス遊覧日記

    ダイアリつけはじめて100日いったらまたアンケートやろうと思っていたのでチャレンジしました。100日は過ぎちゃってるけど。 質問は、TEIMさん(http://silvery.whitesnow.jp/)の配布されているものをお借りしました。 基的に、読んだことのあるが対象です。 ただし、マンガはだめです。 同じは、一度しか選んではいけません。 というルールにのっとって答えてみました。「同じは一度だけ」のルールがかなり難しかったです。 Q01. 小学校・中学校のころに読んだ、おもしろかったを2冊教えてください。 『ナルニア王国物語』シリーズ/C.Sルイス はまりました。ナルニアに行きたかった。特に『ライオンと魔女』が好き。早く映画みたい。アスラン!! 『トンカチと花将軍』/舟崎克彦 ぽっぺん先生シリーズも良いですが、特に好きなのはこれ。大人になった今読んでも面白い。 Q02. 1

     本好きさんに50冊の質問 - イチニクス遊覧日記
  •  柴田元幸トークショー@青山ブックセンター - イチニクス遊覧日記

    友人に誘われて、仕事帰りに「アメリカン・ナルシス」刊行記念のトークショーに行ってきました。「アメリカン・ナルシス」はまだ読み切っていない、というか読む前に読まなくちゃというが多いので読めるとこから読んでいる感じなのですが、トークショーの方は柴田先生らしい、わかりやすいお話で楽しかったです。 話題の中心となったのは「アメリカン・ナルシス」の主題でもある、「アメリカ文学における19世紀と20(21)世紀の違い」ということでした。 19世紀の文人たちの文章を読んでいて、何よりもまず感じるのは、自分が世界とじかにつながっているのだという感覚である。(東京大学出版会の会誌より) ということを、メルヴィル「白鯨」のイシュメール、トウェイン「ハックルベリーフィンの冒険」のハックルベリー・フィンらを例に挙げて話し、現代の文学では「世界」(社会ではなく)となじむことが難しいのではないかと繋げていました。確

     柴田元幸トークショー@青山ブックセンター - イチニクス遊覧日記
  •  マンガは哲学する/永井均 - イチニクス遊覧日記

    マンガは哲学する (講談社プラスアルファ文庫) 作者: 永井均出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/08メディア: 文庫 クリック: 7回この商品を含むブログ (31件) を見る面白いだった。読みはじめたらとまらなくて、明け方まで読んで、翌日中には読み終えてしまった。 漫画好きな人への哲学書というよりは、哲学好きな人への漫画考察書という意味合いの方が強いので、こので紹介される哲学的な問題の糸口については、あまり深く掘り下げられない。あくまでも入り口が示されるだけなのだけど、これはきちんと永井均さんの哲学書になっている。とにかく私はほんと、この人の哲学が好きみたいだ。 でも、このを読むには、紹介されている漫画を読んでからの方が良いと思います。基的にネタばれは避けようとしているみたいだけど、やはりどうしてもネタばれしてしまう部分はあるし、予備知識もなく「漫画を読んで感じたこと」

     マンガは哲学する/永井均 - イチニクス遊覧日記
  •  〈子ども〉のための哲学/永井均 - イチニクス遊覧日記

    <子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス 作者: 永井均出版社/メーカー: 講談社発売日: 1996/05/20メディア: 新書購入: 17人 クリック: 125回この商品を含むブログ (164件) を見る永井均さんのを読んだのも初めてなら「哲学」についてのを読むのも初めてだ。だから私は永井均さんがどういうところをたどってこのような考えを導くに至ったのかは知らない。それでもとても楽しく読み進めることが出来た。 このを読むまで「哲学」というとイメージするのは「哲学史」であり、それと自分が考え事をすることを結びつけることはまた違うと思っていた。 しかしこので永井さんは何一つ「結論」めいたことは言っていなくて、ここにあるのはその思考する経過の記録みたいなものだった。そして「誰が何を言って、それが間違ってるとか合っているとか、そんなことは哲学ではない。こうしなければならない、という

     〈子ども〉のための哲学/永井均 - イチニクス遊覧日記
  •  「日日雑記」/武田百合子 - イチニクス遊覧日記

    日日雑記 (中公文庫) 作者: 武田百合子出版社/メーカー: 中央公論社発売日: 1997/02メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 66回この商品を含むブログ (97件) を見る武田百合子さんは最初の日記である「富士日記」をつけはじめる際に以下の3点を心構えとしてあげたという。 ・自分に似合わない言葉、分からない言葉は使わないようにしたい ・キライな言葉は使わないでいよう ・美しいという言葉を簡単に使わないようにして、それがどんな風に美しいのかを書こう (要約です) そして、「私は自分がはなす言葉でしか書けない」とも言っている。確かに武田百合子さんの作品は話し言葉のようであり、読んでいるこちらとしては、だんだんに、まるでよく知っている人のように思えてくる。しかし、その日記の特異な点として、「日記でありながら、著者の心情描写がほとんど見当たらない」ということがあげられると思う。 彼女の

     「日日雑記」/武田百合子 - イチニクス遊覧日記
  •  「袋小路の男」/絲山秋子 - イチニクス遊覧日記

    袋小路の男 作者: 絲山秋子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/10/28メディア: 単行購入: 1人 クリック: 20回この商品を含むブログ (242件) を見る「俺は当にいろんななことを諦めているんだ」という言葉はエクスキューズに過ぎず、その言葉を発することで、彼はいろいろなものから逃げ回っている。例えば所有されること。何かを所有すること。自分の弱さを認めること。他人の弱さを引受けること。人生は辛いものだ、と考えること自体が未練がましく希望に満ちあふれていることだと考えているから、口元に皮肉な皺を浮かべ「別に/何も/期待していない」と発することで逃げる。しかしそうやって逃げ回るほどに彼は追いつめられて袋小路の奥にどんどん押し込められていく。 そこから見える出口には希望しかない。しかしその希望を失った時に、全てを失う気がして怖くて、彼はそこから出ていけない。 小田切実にとっ

     「袋小路の男」/絲山秋子 - イチニクス遊覧日記
  • 「煙か土か食い物」/舞城王太郎 文庫版について - イチニクス遊覧日記

    舞城王太郎作品をすごーいすごーいと言って皆におすすめしまくっていたのも今は昔。すっかり有名人になってしまわれて、嬉しいような寂しい様な気分になる。いや実は新作が出るたんびに私はちょっと寂しくなってしまってるのかもしれない。といいつつ「好き好き大好き超愛してる」以降は読んでいないのですが。 「煙か土かい物」に始まって怒濤の勢いで繰り広げられる奈津川家シリーズは当に大好きだった。おもしろーいと思って夢中で読んだ。一応「世界は密室でできている」までを奈津川、というか福井シリーズだとして、なんかもう福井弁が出てこないのが寂しい。 文中にあれこれ出てきた「作者人が好きなものいろいろ」、特にエドワード・ホッパーとか「ピコーン」に出てきた「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の一節とか、ほくそ笑みながら読むのも楽しかったけど、いまはもうそういうのもなくなってきた感じ。 そしてとうとう出た文

    「煙か土か食い物」/舞城王太郎 文庫版について - イチニクス遊覧日記
  • カンバセイション・ピース/保坂和志 - イチニクス遊覧日記

    このを読むのは、私にとってごちそうをべるようなものだった。 ついこの間、私はヴィトゲンシュタインさんの『私は、私が世界をどのように見たか、を報告したい』という言葉を知って、なんだか目から鱗が落ちたような気分になったのだけど、このに書かれていることは、まさしく保坂さんの『報告』であって、こんなふうに、誰かの『報告』を聞いて、触発されるということは、私にとってのごちそう、なんだと思う。 「このはずっと手もとに置いておくだろう」と思ったには、遠慮なく折り目をつけていくのが習慣なのだけど、このにはほんとうにたくさんの折り目をつけてしまった。画像を見ると、ちょっと気持ち悪いかもしれないけど、私は少なくともこれだけの回数は立ち止まり、このと会話をしたような気持ちになっている。 例えば私は一昨日、『(考えるということは)頭の中にある、たくさんの亀裂の奥を、高くから照らしているような』なんて

    カンバセイション・ピース/保坂和志 - イチニクス遊覧日記
  •  「魔王」/伊坂幸太郎 - イチニクス遊覧日記

    魔王 作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/10/20メディア: 単行購入: 2人 クリック: 162回この商品を含むブログ (474件) を見るすごい。これは今、読まれるべきなんじゃないかと思う。私は読んで良かった。 物語は前後編に別れているのだけれど、基的には一つの物語です。今までの伊坂幸太郎作品と大きく異なるのは、視点(主人公)がその1編づつでは一貫しているということ。それから今までの作品が計算されつくしたような構成をもっていたことと比べると、少々荒っぽく感じるところもあるのだけど、これを書かなくてはという意志の圧力みたいなものを感じる作品だった。ただ、その圧力は作者の「意見」を押しつけるようなものではないです。きりぎりまで具体的な(現実における)共通認識に沿うような形の比喩をとり、「現代」に対する警鐘としてのメッセージが込められているのにも関わらず、

     「魔王」/伊坂幸太郎 - イチニクス遊覧日記
  •  ベルカ、吠えないのか?/古川日出男 - イチニクス遊覧日記

    ベルカ、吠えないのか? 作者: 古川日出男出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/04/22メディア: 単行購入: 7人 クリック: 190回この商品を含むブログ (384件) を見るすごい、なんて陳腐な言葉しか浮かばないけれど、すごい物語だ、と思った。太平洋戦争時からソ連崩壊に至るまでの人間の、戦争歴史と表裏一体となった、イヌの歴史についてがこのには書かれている。だからこれは、一九五七年の、十一月、イヌ紀元ゼロ年を中心として描かれる歴史だ。 全てが駆け足のように思える。そしてそれは実際、哮り、駆けるイヌと、イヌと交わった人間の物語だ。 たくさんのイヌがいて、それぞれの生や能があって、そこから遠いところで動いていく世界があって、その個と世界の遠さはまるであの一九五七年に見上げる空と地上ほどもあるように思える。 いろいろ狂う。狂っているように見える出来事もある。でも、歴史なん

     ベルカ、吠えないのか?/古川日出男 - イチニクス遊覧日記
  •  『LOVE』/古川日出男 - イチニクス遊覧日記

    LOVE 作者: 古川日出男出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2005/09メディア: 単行購入: 3人 クリック: 26回この商品を含むブログ (199件) を見る私はまだ既に刊行されている古川日出男作品のすべてを読んではいない。だからまだ、断言しちゃだめだ、という気持ちもあるのだけど、でもやっぱりこう思う。古川日出男の言葉は「音楽」にとてもよく似ている。言葉のイメージと、リズムと、音を鳴らす複数の登場者が絡み合い、時には競いあいながら一つの空間を作り出す。そこに描かれる先を見るのではなくて、瞬間ごとに開けていく風景を感じながら、ステップを踏む。それがとても楽しい。 そしてその文章は、ロックンロールだ、と思う。ロックの定義は多々あれど、ここで重ねているのは、その「衝動」が「解放」に結びつく感じ。物語は常に地に、町の中にある。そこに様々な物語の断片がちりばめられている。それは私も知って

     『LOVE』/古川日出男 - イチニクス遊覧日記
  •  「二〇〇二年のスロウ・ボート」/古川日出男 - イチニクス遊覧日記

    ISBN:4167679744 買った時に「トリビュート村上春樹」シリーズの中の一作だ、と気付いて、その発案者が古川さんだった、ということがちょっと意外だったのですけど*1、とりあえず「中国行きのスロウ・ボートRMX」であるところのこの作品は、とても面白かった。あとがきを読むとRMXってそういうことか、と腑に落ちます。が、読んでいる間はトリビュートであることを忘れていた。でもまあ、強いて言えば「国境の南、太陽の西」の匂いがしないでもない。 * * * さて、これは主人公(名前はまだない/たぶん/でもあえてつけるなら「僕」だ/だってこれはトリビュート村上春樹なのだから)が、「東京」から脱出を試み、失敗し、その負け続けた「歴史」を越境するまでの物語だ。 正直、第一艘(スロウ・ボートだけに)を読みはじめた段階では、このにはのれそうにないなという気がしていた。文章のリズムが捉えられない。でも徐々

     「二〇〇二年のスロウ・ボート」/古川日出男 - イチニクス遊覧日記
  •  ふしぎな図書館/村上春樹 - イチニクス遊覧日記

    かつてかなり重症な春樹アディクトだった私も、アンダーグラウンド以降は少し距離を置くようになり、かつてのようにハイペースで過去の作品を読み返すことはなくなった。 それでも、今も時々読み返したくなる作品は多いし、誰に何と言われようと、村上春樹が好きであることにかわりはない。ただ、人にそれを強要しようとは思わないから、読んだこと無い、とか、好きじゃない、とか言う人がいても、「私は好きだよー」とつつましく(?)アピールしてみるくらいのものである。 私が好きな村上春樹作品は主に初期〜中期、つまり「風の歌を聴け」から「ねじまき鳥クロニクル」までの全てであり、その後の作品についても、大好きなんだけど、「海辺のカフカ」も「アフターダーク」も、なんかしっくりこないかんじは否めなかった。 まあそれは「僕」の不在ということに尽きるのかもしれない。 しかし数年ぶりに佐々木マキとのコンビで新刊が出るときいてからは、

     ふしぎな図書館/村上春樹 - イチニクス遊覧日記
  • 象の消滅/村上春樹 - イチニクス遊覧日記

    「象の消滅」 短篇選集 1980-1991 作者: 村上春樹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/03/31メディア: 単行購入: 11人 クリック: 231回この商品を含むブログ (251件) を見るこのを読んでいくつか新しい事実を知った。まずこの短編集の編集者はレイモンド・カーヴァーの担当編集者でもあったということ。そして村上春樹が「ニューヨーカー」に翻訳された作品を掲載された最初の日人作家であったということ。「中国行きのスロウ・ボート」は村上春樹にとって「初めて書いた短編小説であった」ということ。 既に読んだことのある作品ばかり、とはいえ、いつものように改稿も加えられている。今回の場合は「レーダーホーゼン」が米国版から新たに(自ら)翻訳しなおしたもの。改稿ありだし、装幀も美しいし、買うことはためらわなかった。が、ためらわなかった理由はもう1つある。村上春樹が初めて「ニュ

    象の消滅/村上春樹 - イチニクス遊覧日記
  •  東京奇譚集/村上春樹 - イチニクス遊覧日記

    東京奇譚集 作者: 村上春樹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/09/15メディア: 単行購入: 5人 クリック: 95回この商品を含むブログ (556件) を見る今年の3月から6月にかけて「新潮」誌に掲載された4つの短編に、書き下ろしを一編加えた、村上春樹さんの最新小説集。新しい作品という意味でいえば、「アフターダーク」以来となります。 私は長いこと、ほんとうに村上春樹さんの小説が好きで、殆どの作品を何度も読み返してきました。そしてずっと、春樹さんの文章は「体中にしっくりと馴染んでいるような」気がしていました。初めて春樹さんの小説を読んだのは小学生の頃ですから、ほんとうに長い間春樹さんの小説と付きあってきたんだなぁと、この頃では新刊が出るたびにしみじみしてしまいます。 ただ、「海辺のカフカ」以降の作品には(つまりカフカとアフターダークの2作品に関しては)文体の変化もあったせい

     東京奇譚集/村上春樹 - イチニクス遊覧日記
  • グレート・ギャツビー/スコット・フィッツジェラルド - イチニクス遊覧日記

    作:スコット・フィッツジェラルド 訳:村上春樹 最初に読んだのは中学生時代、どこかで村上春樹が「特別に好きな作品である」、と話しているのを読んだからだった。しかし、その当時の私には些か遠い話に思えたし、正直、それほど面白い話だとは思えなかった。次に読んだのは『スプートニクの恋人』が出た頃のことで、私には第二次村上春樹ブームがきていた。彼の著作を片っ端から読み返し、そこから何かを探そうと躍起になっていた。ギャツビーもその流れの中で読み返したのだけれど、やはり、どこかしっくりこないまま読み終えた。 この「グレート・ギャツビー」という小説は、あとがきで村上春樹さんも書いているように、冒頭と結末が特に素晴らしく、印象的に残る。そこには読み終えてすぐさま数度読み返し、頭の中で音読して余韻に浸りたくなるような美しさがある。しかし、それは物語と有機的に結びついてこそ、特別な色彩を放つのだ、ということを感

    グレート・ギャツビー/スコット・フィッツジェラルド - イチニクス遊覧日記
  •  冷血/トルーマン・カポーティ - イチニクス遊覧日記

    冷血 作者: トルーマン・カポーティ,佐々田雅子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/09/29メディア: 単行購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (55件) を見るカポーティは私の一番好きな作家のひとりだ。出会いは「アンファン・テリブル」というスキャンダラスな代名詞でも映画版の「ティファニーで朝を」でもなく、言葉の隅々にまで神経の行き届いた、美しい短編小説集『夜の樹』だった。 初めて『冷血』を読んだのは、そのすぐ後、カポーティの作品を読みあさっていた(といってもそれほど多くの作品が邦訳刊行されているわけではないけれど)中学生から高校生にかけてのことだ。しかしあの繊細な文章の魅力を求めて手に取った「冷血」は、少々期待外れの作品でもあった。その後に「カメレオンのための音楽」に収録された「手彫りの棺」を読んでからは、その期待の仕方が間違っていたのだと思うようになった

     冷血/トルーマン・カポーティ - イチニクス遊覧日記
  • シカゴ育ち/スチュアート・ダイベック - イチニクス遊覧日記

    シカゴ育ち (白水Uブックス―海外小説の誘惑 (143)) 作者: スチュアート・ダイベック,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 2003/07メディア: 新書購入: 2人 クリック: 55回この商品を含むブログ (58件) を見る短編と掌編で構成された、一冊のスケッチブックのような小説。 ここにあるいくつかの掌編は、別のに収録されていた際に読んだことがあったのだけど、一冊のとして読むと、まるで印象が違う。様々なタッチで、色で、様々な表情が描かれているけれど、そのどれもがシカゴという街の姿を描いたものであるという点で繋がり、共鳴しているかのようだ。 ここでは風景も思いも全て映像のように克明に描き出されている。そして私は、その「眼」こそが作者の素晴らしさなのだと思う。彼の眼を通過することによって、時間も場所も混沌の中で一枚の絵となり、そこには生き物のような街があらわれている。 シ

    シカゴ育ち/スチュアート・ダイベック - イチニクス遊覧日記
    inmymemory
    inmymemory 2008/03/25
    「いままで訳した本のなかでいちばん好きな本を選ぶとしたら、この『シカゴ育ち』だと思う」(柴田元幸)
  •  タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262) 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1977/10メディア: 文庫購入: 17人 クリック: 288回この商品を含むブログ (253件) を見る目からうろこです。すごく面白かったです。 ヴォネガットというと、訳者である浅倉久志さんとのコンビで村上春樹に影響を与えた〜、という文脈で語られることも多く、かつて春樹アディクトだった私もまたそういう情報の中からヴォネガット、という名前を覚えました。はじめてヴォネガットの作品を読んだのは高校生の頃、なんでそれを選んだのかは不明ですが「モンキー・ハウスへようこそ」でした。短編集なので、普通ならとっつきやすい作品のはずなんですが、今思うとこれの場合はヴォネガットの世界になじんだうえで読むべきだった作品のように思います。まあ、とにかく当時の私はいまいちその魅力

     タイタンの妖女/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  •  スローターハウス5/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    ISBN:415010302X 『タイタンの妖女』における《さまざまな「真理」が「時計の部品みたいにぴったり一つになっている」》時間等曲率漏斗に飛び込んだ男、ラムファードのように、この物語の主人公、ビリー・ピルグリムもまたトラルファマドール的な四次元空間に生きている。 この物語の中でビリーが彷徨うことになる時間の断片は時間も場所も混沌としているが、物語の中心は第二次世界大戦中にヴォネガット自身も捕虜としてその場にいたというドレスデン爆撃を中心としている。今まで読んできたヴォネガットの作品の中では最も「作者自身」の言葉に近いものもあるんじゃないかと思うけれど、そう簡単に言い表せるような物語ではなかった。ヴォネガットのことだから、そこにブラックユーモア的な何か暗喩めいたものがあるのかもしれないけれど、私はそのトラルファマドール的な時間の捉え方を把握することばかりに気を取られていたし、それだけで

     スローターハウス5/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  •  猫のゆりかご/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    「タイタンの妖女」があんまりにも面白かった*1ので、次はどれを読もうかなぁ、と思って選んだのがこれ。 面白かった。タイタンを読んだときよりすらすら読めた気がします。 のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353) 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,伊藤典夫出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1979/07メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 148回この商品を含むブログ (165件) を見る「のゆりかご」は、1人の科学者と1つの新興宗教を巡る物語で、1人の男が「世界が終末をむかえた日」と題されたを書くまでの回想のような形で描かれる。 冒頭からその存在は明らかにされているのに、主人公が「ボコノン教」というその新興宗教に出会うまでには紆余曲折があり、風変わりな登場人物達に翻弄され、なぜ「そこ」、つまり物語の書き出し部分、にたどり着くのか、という疑問がまるでミステリのようにページを

     猫のゆりかご/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  • ジェイルバード/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    ジェイルバード (1981年) (Hayakawa novels) 作者: カート・ヴォネガット,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1981/11メディア: ?この商品を含むブログ (3件) を見る「ウォーターゲート事件の巻きぞえをって囚人の身になった主人公、ウォルター・F・スターバックの回想録という形で」*1語られる物語。 思い付いたことから片端にしゃべっているかのようなステップで時間のモザイクを描いてみせる、その語り口は見事としか言い様がなく、物語るということは、時間の流れを説明することではないのだということをあらためて考える。 そして、この主人公の造形もまた、ヴォネガットならではだと思う。例えばこんな言葉がある。 この自伝を書いていていちばん恥ずかしいのは、わたしが一度も真剣に人生を生きたことがないという証拠の数かずが切れ目なくつながっていることである。長年のあいだにわ

    ジェイルバード/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  •  プレイヤー・ピアノ/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    ヴォネガット最初の長編小説である『プレイヤー・ピアノ』は、その後に書かれた、私が読んだことのあるいくつかの作品と比べると、とてもシンプルな筋の作品であり、登場人物一人一人がとても印象に残る物語だった。そして、その一人一人の人間くささ、そしてラストに向かうほどに混乱していく所などが、いかにもヴォネガットらしい。 プレイヤー・ピアノ (ハヤカワ文庫SF) 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,Jr. Vonnegut Kurt,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 16回この商品を含むブログ (38件) を見るこの物語は、いつかの未来を舞台に描かれている。その舞台については、物語の冒頭でこう解説される。 ニューヨーク州イリアム市は、三つの区画に分かれている。 北西部には、管理者と技術者と公務員、それに少数の医師と弁護士が住んでい

     プレイヤー・ピアノ/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  • ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記

    ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464) 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1982/02メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 153回この商品を含むブログ (90件) を見るローズウォーター家の莫大な財産を相続したエリオットは、いろいろあって、その金を貧しい人たちに分け与えている。困ったことがあったら、彼に電話をかければいい。「ローズウォーター財団です。なにかお力になれることは?」 エリオットの行動を、彼の父親はアルコールのせいだと考え、精神分析医は病のせいだと言う。もしくは宗教の、あるいは社会主義のせいであると。そして、エリオットは様々なカテゴライズから、逃げ回っているように感じられる。 気が向いたなら、贅沢三昧の暮らしも地位も、なんでも手に入れることができるのに、なぜ貧しい人々に金を分け与えるの

    ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを/カート・ヴォネガット・ジュニア - イチニクス遊覧日記
  •  銀河ヒッチハイク・ガイド/ダグラス・アダムス - イチニクス遊覧日記

    銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫) 作者: ダグラス・アダムス,安原和見出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2005/09/03メディア: 文庫購入: 39人 クリック: 347回この商品を含むブログ (371件) を見る映画「銀河ヒッチハイク・ガイド」がとっても楽しかったので、その帰り道に買った原作。今日読み終わりました。楽しかった! 映画を先に見てしまったので、映画と違うとことかに気を取られてしまったんだけども、一読して実感したのは、とにかく映画の脚は良く出来てたんだな、ということ。これだけ面白い原作で、しかも国では超人気作ともなると、出来るだけ忠実に作った方が無難なんだろうなと思う。でも原作の世界を壊さない程度にエピソードを追加するっていうだけでなく、映画として緩急をつけて、原作を知らない人でも楽しめるものにするって意味で、あの映画はきちんと成功してたと思います。特

     銀河ヒッチハイク・ガイド/ダグラス・アダムス - イチニクス遊覧日記
  •  「ヴィーナス・プラスX」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記

    スタージョン作品をいくつか読んできて、私はすっかりスタージョンのファンになってしまった。つまりスタージョンの作品は、どれもスタージョン流の哲学につらぬかれていて、その点ではこの作品も例外ではない。 けれどこの作品のテーマでもある「ジェンダー論」というのは、読む際に否が応でも自分の立ち位置を照らし出すものであり、読んでいて少なからず辛いところもがあった。たぶん、自分にとっては、あまり考えたくないことなのだと思う。 ただ、やはりスタージョンの思想のようなものにはやはり好感を抱いたし、このテーマが、スタージョンにとって切実なものであったことも、伝わってくる。 ヴィーナス・プラスX (未来の文学) 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,大久保譲出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2005/05メディア: 単行購入: 2人 クリック: 10回この商品を含むブログ (

     「ヴィーナス・プラスX」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記
  •  夢みる宝石/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記

    スタージョンは読むたびにべた褒めしてる気がしますが、これもまた。すごく面白かった。まだ数冊しか読んでいないのに、これまで読んできたもの全てで、既にスタージョンは私にとって特別な作家になってしまった。 夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF) 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,永井淳出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/02メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 10回この商品を含むブログ (64件) を見るこの「夢みる宝石」は久々に、それこそ寸暇を惜しんで読んだ作品だったのだけど、それでいて、物語の内容はといえば、人に説明しても首を傾げられてしまうだろう、不思議なものだった。でも読んでいるあいだは、すっかり理解している気分でいる。解説には「難解」と書かれていたけれど、これまで読んだスタージョン作品の中では一番読みやすいと思った。ファンタジーでもあり、SF

     夢みる宝石/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記
  •  「人間以上」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記

    人間以上 (ハヤカワ文庫 SF 317) 作者: シオドア・スタージョン,矢野徹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1978/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 154回この商品を含むブログ (69件) を見るスタージョンの作品を読むたびに、全く新しい未知のものと出会うような驚きを感じる。といってもまだ3冊目で、長編作品を読んだのは初めてだったのだけど、なんだかお腹のそこにずっしりと溜まるような満足感があった。 物語は3つの章に別れていて、あとがきによると、これは最初に書かれた中篇「赤ん坊は三つ」に前後を付け足すような形で書かれたものらしい。確かに、1つ1つの章を独立した中篇として読むこともできるのだけど、その内容は複雑に絡み合っていて、なんだか人の頭の中を覗いているような感覚。なので、もう2、3回読まないとこのの全体像は掴めないような気もするんだけど、それでも読み進めるうち

     「人間以上」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記
  •  『不思議のひと触れ』/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記

    不思議のひと触れ (シリーズ 奇想コレクション) 作者: シオドア・スタージョン,大森望出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2003/12/22メディア: 単行購入: 1人 クリック: 14回この商品を含むブログ (82件) を見る「輝く断片」を読んで以来、すっかりスタージョンに参ってしまっているこの頃ですが、その作品の魅力を端的に言い表しているのが、あとがきにも引用されていたこの言葉だと思う。 たとえば、作家で書評家のP・スカイラー・ミラーは、スタージョンの文章の特徴が「平凡で日常的な題材に独特の色をつけ、突拍子もないものをなじみ深く見せるような"a touch of strange"にある」と書いている。(あとがきp334) 「輝く断片」を読んだ時の感想*1に、私は「内容は特異とすら言えるのに、その主人公たちには容易に「感情移入して」しまう」と書いたのだけど、こうして2冊の短編

     『不思議のひと触れ』/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記
  •  「輝く断片」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記

    輝く断片 (奇想コレクション) 作者: シオドア・スタージョン,大森望出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2005/06/11メディア: 単行購入: 1人 クリック: 23回この商品を含むブログ (129件) を見る最初に知ったのはどちらでだったのか思いだせないのだけど、この「輝く断片」の書評をあちこちで(ネットの中の)見かけるうちになんだか気になって、ついに購入した。 スタージョンの作品を読むのはこれが初めてなのですが、これが、もう、猛烈に面白かった。凄かった。読み進めるうちにぐんぐんと面白くなっていくので、読み終えるのが惜しくなってしまったけれど、読み終えた後には深い満足感がありました。 このシオドア・スタージョンという作家さんはSF作家として有名な方らしいのですが、この作品集は、大森望さんのあとがきによると、「数あるスタージョン短編の中でももっともスタージョンらしい(と僕が

     「輝く断片」/シオドア・スタージョン - イチニクス遊覧日記
  •  たったひとつの冴えたやりかた/ジェイムズ・ティプトリー・Jr - イチニクス遊覧日記

    たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF) 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1987/10メディア: 文庫購入: 39人 クリック: 617回この商品を含むブログ (265件) を見るこのには3作の短編が、合間に挟まれるストーリーによって繋ぎあわされる形をとっています。どのお話もまったく色合いの違うものであることに、作者の懐の深さを感じながら読んでいたのですが、あとがきを読むと、どうやらこのティプトリー・Jrという人の作品にはかなり難解とされるものが多いらしく、作は異色作ととらえられているらしいです。 つまり、私はティプトリー・Jrを読んだのははじめてなのですが、宇宙を舞台にした正統派(と言っていいのかな?)なSFを読んだのも、たぶん初めてだと思います。なにぶん、SFを読みはじめたのが最近なので、何から手を付けたら良

     たったひとつの冴えたやりかた/ジェイムズ・ティプトリー・Jr - イチニクス遊覧日記
  • 愛はさだめ、さだめは死/ジェイムズ・ディプトリー・Jr - イチニクス遊覧日記

    愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,浅倉久志出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1987/08メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 99回この商品を含むブログ (79件) を見る「たったひとつの冴えたやりかた」にしろ、この「愛はさだめ、さだめは死」にしろ、タイトルの付け方が(そして翻訳が)かっこよすぎる。 人間が六十歳になるころには、脳は信じられないほどおびただしい共鳴に満たされた場所になる(とわたしは思う)。人生と、歴史と、過程と、パターンと、ちらちらのぞき見された無数のレベルのあいだのアナロジーとで、ぎっしり詰まっていることだろう……。老人たちがひまをかけて返事をするひとつの理由は、あらゆる単語とキューが千もの連想を目覚めさせるからだ。 もし、かりにそれらを解き放ち、開けはなすことができたら? 自我と地位を捨て、あらゆるもの

    愛はさだめ、さだめは死/ジェイムズ・ディプトリー・Jr - イチニクス遊覧日記
  •  わたしを離さないで/カズオ・イシグロ - イチニクス遊覧日記

    わたしを離さないで 作者: カズオイシグロ出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/04/22メディア: 単行購入: 10人 クリック: 568回この商品を含むブログ (558件) を見るぜひ読んでみて、と言われて手に取った。はじめてのカズオ・イシグロ作品。ひとことでいえば、すごく面白かった。 とりあえず、この物語を読むには、できる限り前情報がない方が良いと思う、と一応前書きしておきます。 私がこの物語を楽しめたのは、「前情報がない方がいい」ということを知っていたので、だからこそミステリを読むような心持ちで読みはじめたことで、物語にうまく「のれた」からだと思う。 この物語は終始主人公の一人称で、回想として語られ、だからこそ肝心なことがかなりの間隠されているし、やがて、全ては失われてしまっていることもわかる。私はそのミステリ要素を楽しみ、切なさを存分に味わった。ただ、これにのれない人

     わたしを離さないで/カズオ・イシグロ - イチニクス遊覧日記
  • ひとりっ子/グレッグ・イーガン - イチニクス遊覧日記

    ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF) 作者: グレッグイーガン,Greg Egan,山岸真出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/12メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 80回この商品を含むブログ (186件) を見る イーガンの小説は、「祈りの海」と「しあわせの理由」とこれと、つまり短編集でしか読んだことがないのだけど、読むたびに唸らされるというか頭のもやもやしたところをマジックでなぞられている気分というか、とにかく「すごい!」と叫びながら走り回りたい気分にさせられるのだけど、くやしいことに、私はここに書かれていることをただ見上げているだけで、がんばって首をのばしてようやく、垣間見えたもののイメージは鮮明でも、それを自分の言葉で説明する方法がわからない。…なんて言いつつも、こうしてつたない感想を書いてみたりするわけですが、この気分をたとえるならば、それは、こんな感じ。 舞いあが

    ひとりっ子/グレッグ・イーガン - イチニクス遊覧日記
  •  空中スキップ/ジュディ・バドニッツ - イチニクス遊覧日記

    目覚めるとつかみ所のなくなってしまう夢の中の風景みたいに、懐かしくて捕らえ所のない物語が、読める、ということにびっくりした。大好きなは数多くあるけれど、このはちょっと特別な存在になった。そして、恐れを知らずに言ってしまうと、たぶん、私が書いてみたいと思っていたのは、こんな文章だったんだ。 空中スキップ 作者: ジュディ・バドニッツ,岸佐知子出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2007/02/22メディア: 単行購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (55件) を見るジュディ・バドニッツという作家さんの作品を読むのは初めてで、たまたま屋さんで、岸佐知子さんの翻訳ということで手に取りました。既に翻訳出版されてるものもあるそうですが、全部で23の短編が収録されているこの短編集が、ジュディ・バドニッツさんのデビュー作ということです。原題は「Flying Leap

     空中スキップ/ジュディ・バドニッツ - イチニクス遊覧日記
    inmymemory
    inmymemory 2008/03/25
    大好きな本は数多くあるけれど、この本はちょっと特別な存在になった。そして、恐れを知らずに言ってしまうと、たぶん、私が書いてみたいと思っていたのは、こんな文章だったんだ cf. http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20070410/p2
  •  夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦 - イチニクス遊覧日記

    あちこちで感想をみかけるものの、どこか煙に巻かれてるような、で、どんな話なの? って気になって仕方なくなって、読みました。最近めっきり読書スピードが落ちている私には珍しく、一日で読み終えてしまった! 夜は短し歩けよ乙女 作者: 森見登美彦出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2006/11/29メディア: 単行購入: 40人 クリック: 2,165回この商品を含むブログ (987件) を見る “先輩" と「詭弁論部」の後輩で彼の意中のひとである “黒髪の乙女” が、目論見とすれ違いと鯨飲の末にの邂逅を果たすまでを活写した現代版伝奇のようなおはなし。 ひたすら乙女を追いかけ、計算尽くしの「偶然」を演出しようと試みる先輩のパートと、乙女の視線を通して語られる奇妙で味わいぶかい世界のようすがかわるがわる描かれていく構成は、最初少しだけ読みにくく感じたものの、ラストまで読み終えてみれば、なるほど

     夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦 - イチニクス遊覧日記
  • 真鶴/川上弘美 - イチニクス遊覧日記

    真鶴 作者: 川上弘美出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2006/10メディア: 単行購入: 2人 クリック: 25回この商品を含むブログ (170件) を見る 久しぶりに、川上弘美さんの小説を読んだ。 川上さんの小説は、好きだけど、なんとなく引きずられるようなところが少し苦手だ。そして、このは、今まで読んだ川上さんの作品の中で、もっとも、引きずられる物語だったように思う。 さみしくなる話だった。でもその感じは久しぶりで、やっぱり少し苦手とか思いながらも、夢中になって読み終えた。 主人公、京と、その母と娘の百。女ばかりの家族と、恋人の青慈、そしていなくなった夫、礼。その人の輪の中で描かれるのは、人と人とを分け隔てる境の話だ。 家族になって、からだとからだの境界もはっきりしなくなって、百とわたしと礼の三人でまじりあってとけあっていると思っていた。/p217 この器のある間は、人はたぶ

    真鶴/川上弘美 - イチニクス遊覧日記
  • どれもこれもすきで困るのである - イチニクス遊覧日記

    なんとなくで、久々に山之口貘さんの詩集をちらちらと読んでいる。いちにちひとつ、でも、その日を覆ってしまうような気持ちがあって、たとえば誰かに宛てたラブレターを盗み見てしまったような、そんな詩がとても多いのを、かつての私はどこかうらやましく読んだものだったけれど、今はずいぶんと心持ちがかわって、その切実に、ただかきたてられるみたいだ。 つまり……とかいってみたくなるけれど、感想で包んでしまうのは惜しい。 そんで今日の月。雲に覆われた月って、見てると足場が裏返るような感じだ。 海とか、いきたいなあ。ハムトーストべながら、あてもない手紙書いたりしたい。

    どれもこれもすきで困るのである - イチニクス遊覧日記
  • 「I LOVE YOU」 - イチニクス遊覧日記

    I love you 作者: 伊坂幸太郎,石田衣良,市川拓司,中田永一,中村航,多孝好出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2005/07メディア: 単行購入: 1人 クリック: 134回この商品を含むブログ (199件) を見る恋愛アンソロジー。以前ついったで、これに収録されている「百瀬、こっちを向いて」という話がいい、と聞いて探してたんだけど見つからないなーと思ってたら文庫がでてたので買って読みました。 「透明ポーラーベア」/伊坂幸太郎 「人間の土地」が引用/参考文献にあげられていることから、なんとなく「砂漠」と同時期書かれたものなんじゃないか、と思う。伊坂さんは長編のが好きだけど、短編を読んでも、その前後の広がりを想像できるところが好きだ。 魔法のボタン/石田衣良 石田衣良さんは、以前好きでよく読んでたんだけど、「14」までかな。以後なぜかぱったり遠ざかってしまっていた。まずね、

    「I LOVE YOU」 - イチニクス遊覧日記
  • 人間の土地/サン=テクジュペリ - イチニクス遊覧日記

    伊坂幸太郎さんの『砂漠』に引用されているのを読んで、昔たぶん読んだことあるはずなのに覚えてないなぁ…と思ってたのは「夜間飛行」だった…ということに読みはじめて気付きました。 人間の土地 (新潮文庫) 作者: サン=テグジュペリ,堀口大学出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1955/04/12メディア: 文庫購入: 27人 クリック: 223回この商品を含むブログ (189件) を見るサン=テクジュペリが職業飛行家として過ごした十五年間の思い出が描かれたこのは、物語としてでもエッセイとしてでもなく、一人の人の思考の流れを読むという意味では哲学書のようなイメージに近かった。実際の出来事をもとに描かれているので、読み物として読んでも迫力があるのだけど、その中で自分の中に、深く潜っていくような、この切実さ、真摯さのまえでは、それを読む私にとって違和感のある描写にも(それはほとんど時代の差といえる

    人間の土地/サン=テクジュペリ - イチニクス遊覧日記
  • 「さてと」と彼は言った。 - イチニクス遊覧日記

    の内容に触れています】 ときどき、わりと頻繁に、アンヘラ・ビカリオとバヤルド・サン・ロマンのことを思いだす。ガルシア・マルケス『予告された殺人の記録』の終盤で描かれる、彼らが再会する場面は、私がこれまで読んだ物語の中でも、ひときわ印象深く思い起こされるもののひとつだ。 → あるとき、ふらりと町に現れたバヤルド・サン・ロマンは、町の娘、アンヘラ・ビカリオに一目惚れする。アンヘラは気乗りしないままだったが、やがて婚礼の宴が執り行われることになる。しかし、その夜、彼女が実は処女でなかったことがわかると、彼女は一夜にして実家に戻されてしまう。相手は誰か? 問われたアンヘラは、近所に住む裕福な青年サンティアゴ・ナサールの名を挙げた。すると、アンヘラの兄たちは、家族の名誉を守るため「サンティアゴを殺す」と予告した。 → 『予告された殺人の記録』は、その綿密なプロットと、閉鎖的な地域共同体の描写、人

    「さてと」と彼は言った。 - イチニクス遊覧日記
  • 高山宏の読んで生き、書いて死ぬ : 『シラーの「非」劇-アナロギアのアポリアと認識論的切断』青木敦子(哲学書房)

    →紀伊國屋書店で購入 「疾風怒濤」を思いきって「ゴス」と呼んでみよう ゲーテは尊敬するが、愛するのは誰かと言われればシラーである、というのがドイツ人の口癖だとはよく聞く話だが、一体、いま現在の日にとって古くて遠いドイツロマン派の劇作家・詩人・歴史家ヨハン・クリストフ・フリードリッヒ・フォン・シラー(1759-1805)が大文豪だったという「噂」を聞かされても、どんだけっ、である。硬直した社会への抵抗を熱く説く革命文学者と聞くだに、ださっ、である。「疾風怒濤」運動随一の担い手だそうだが、もう疾風怒濤なんて字も響きもなんだかキモッ、である。ケータイ小説こそ新時代文学の息吹などと、かの「ニューヨーク・タイムズ」までが珍妙に褒め讃える我々のブンガク状況の中で、浪漫派、浪漫主義は、完全に死語である。 ひとつには、いわゆる独文学の世界にレベルを保ちつつ啓蒙の気概をも持ち合わせた人物がいないこともある

    高山宏の読んで生き、書いて死ぬ : 『シラーの「非」劇-アナロギアのアポリアと認識論的切断』青木敦子(哲学書房)
  • 高山宏の読んで生き、書いて死ぬ : 『アルス・コンビナトリア―象徴主義と記号論理学』 ジョン・ノイバウアー[著] 原研二[訳] (ありな書房)

    →紀伊國屋書店で購入 『アムバルワリア』を読んだら次にすること チェスで人がコンピュータに勝てないと判ってからどれくらい経つか。感情や情念といった言葉を持ち出して、人にしか書けない詩があるという人々はなお多く、現に「詩」は相変わらずいっぱい書かれている。しかし、チェスの棋譜を構成していくのと同じ原理が詩をつくるとすれば、人は詩作でもコンピュータに勝てないことが早晩判るはずだ。そう考える詩学がある。チェスと詩学が全く違わないことを、作家ボルヘスは『伝奇集』中の有名な「『ドン・キホーテ』の作者、ピエール・メナール」に宣言した。 ニーチェが「感情の冗舌に抗して」成り立つとした文学観が存在するが、この言い分をキャッチフレーズに掲げたロマニスト、グスタフ・ルネ・ホッケの我らがバイブルたるべき『文学におけるマニエリスム』によれば、「マニエリスム」という文学観がそれで、読むほどに、ヨーロッパで成立した詩

    高山宏の読んで生き、書いて死ぬ : 『アルス・コンビナトリア―象徴主義と記号論理学』 ジョン・ノイバウアー[著] 原研二[訳] (ありな書房)
    inmymemory
    inmymemory 2008/03/25
    詩的象徴主義と記号論理学を通時・共時の両相で同列に論じた。詩と数学が重合→源泉がノヴァーリスのロマン派→源流がマニエリスム数学者ライプニッツの組合せ術→源流はホッケのマニエリスム文学史
  • 文筆家・近代ナリコの書評ブログ : 『ティファニーで朝食を』トル-マン・カポ-ティ 村上春樹訳(新潮社)

    →紀伊國屋書店で購入 「ホリー、ホリー、ホリー!!!」 ここ数年の新訳ブームのなか、サリンジャー、フィッツジェラルド、チャンドラーらの「名作」を満を持してとばかりに訳出してきた村上春樹だが、なにより私が「村上訳」を願ってやまなかったのが書である。 「遠い声 遠い部屋」のアイダベル、「ミリアム」のミリアム、「誕生日の子どもたち」のミス・ボビット。あまりにも純粋、そのためになにかといきすぎでいびつ。だからこそ、途方もなく魅力的なカポーティ描く女の子たち。なかでも「ティファニー」のホリー・ゴライトリーはきわめつけのヒロインであり、私が小説のなか出会った人物のなかでも特別の存在である。だから、いつか彼女が、村上春樹の手によってあらわされる時がくればと待ちこがれていたのだ。 気まぐれに染めたまだらのショート・ヘアはくしゃくしゃ、体は子鹿みたいに細く、サングラスで隠した眼はやぶにらみがかっている。こ

    文筆家・近代ナリコの書評ブログ : 『ティファニーで朝食を』トル-マン・カポ-ティ 村上春樹訳(新潮社)