トーマス・シェリング(Thomas Schelling)の訃報を耳にしてから、彼の著作を何冊か再読している。今日読んだのは、経済学の書の中でも私の一番のお気に入りのうちの一冊であり、学生にいつも薦めているあの本。そう、『Micromotives and Macrobehavior』(邦訳『ミクロ動機とマクロ行動』)である。タイトルからも察(さっ)しがつくだろうが、一人ひとりの行動(ミクロの行動)の合計がいかなる集合的な結果(マクロの結果)を生むに至るかが個々の間の相互作用を考慮に入れながら考察されている一冊だ。例えば、第7章――「ホッケーのヘルメット、サマータイム:二値選択モデル」――の冒頭では、ホッケー(アイスホッケー)の選手たちがヘルメットを自発的に被(かぶ)りたがらないのはなぜなのか――ヘルメットを被る方がずっと安全だと選手全員がわかっている場合でさえ――にメスが入れられている。 そ