澤地久枝(1930- )が元中央公論社の優秀な編集者で、三枝佐枝子のあとの『婦人公論』編集長と目されていながら、作家・有馬頼義(1918-80)とのダブル不倫がもとで退職したことは知られている。 有馬の妻は元芸者で、親の反対を押し切って結婚したが、そのことは長編小説『夕映えの中にいた』に描かれている。ここでは妻が主人公で、夕子とされており、周囲の男たちは「雲」「雨」「露」「火」などの名で書かれている。これは『とはずがたり』をまねしたものだろう。そして「露」が有馬である。だがこれには続編があり、「中年の彷徨」として、『文學界』1971年1月から1972年5月まで連載され、未完で中断している。これは単行本になっておらず、そこに、有馬と澤地が使った連絡用ノートの内容が書かれている。これだと、その部分の著作権が澤地にあることになる。なおここでは、有馬は睡眠薬に頼らなければ小説が書けない作家として描