2月19 保護基をめぐる恐怖譚 今回はちょっと趣向を変えて小咄、というか有機合成の専門家なら身の毛もよだつような恐ろしい話。以前どこかで見かけたものを、筆者がちょっと脚色したものです。 ================ 有機合成化学における最大の悪夢のひとつは、全合成の最終段階近くまで来て保護基が外れないという事態だろう。よくあるケースだが、ただこれだけのことで今までの営々とした苦労が全て水の泡になるのだからたまらない。さまざまな条件を検討し、必死の苦労を重ねてもダメな時はダメだからこの世界は厳しい。 ベンジル基という保護基がある。ヒドロキシ基やカルボキシ基の保護基としてよく使われる。ものの本によれば、各種の還元的条件で問題なく外れるとされている。しかし基質が複雑になってくると、どうにもうまく脱保護ができない時も少なくない。 A君もそのケースだった。数十段階を踏んだ全合成の最終工程、これさ