世にも不思議な音が鳴っている。形容しがたく、それでいて快感を伴う魅惑的な響き。ジャズやプログレッシブ、パワーポップやラテン音楽など、本作から音楽的要素を見出すことは容易だが、サウンドの質感はことごとく未知。このアルバムは、音そのものが魔法なのである。 前作『ソングライン』から2年7カ月ぶりに届けられる、くるりの13作目のフルアルバム『天才の愛』。取材後の雑談で岸田繁は、「『THE PIER』以来の勝負に出た作品」とこぼしていたが、冒険心溢れる音の数々はまさしくそれに通ずるものである。長い時間をかけて作られたという本作は、きっと2人にとっても新鮮な響きをもたらしたアルバムに違いない。 本作に収録された楽曲のほとんどが、ゴミのようなアイデアから生まれたものだという。つまり、本来は捨てられていたかもしれないタネを育むことで完成されたアルバムだ。価値なきものに命を吹き込む探究心と遊び心、通奏低音は