ブックマーク / honz.jp (39)

  • 『アナロジア AIの次に来るもの』アナログ王国序説ーーデジタルを超えた次の時代を読む方法 - HONZ

    始まったばかりだと思っていた21世紀も、気がつけばすでに1/4が経過しようとしているが、われわれが未来の象徴のように思っていた「新世紀」は、9.11のテロで幕を開け、リーマンショック、3.11の未曾有の災害と続き、挙句の果ては新型コロナという感染症の流行と前世紀の冷戦の影を引きずるようなウクライナ戦争の勃発で先が見えない。 その一方でデジタル化やネット化が確実に進行し、スマホやSNSが広く社会に普及し続け、AI将棋や囲碁で人間の世界チャンピオンを打ち負かし、ついには誰もが、絵を描いてくれたり、ChatGPTのようなどんな質問にも卒なく答えてくれたりするAIソフトを自由に使えるようになり、コンピューターの能力が人間の知力を上回るとされる「シンギュラリティー」がもうすぐ実現するという声も聞かれる。 多くの人にとって、こうした「デジタル」が象徴するイメージは、AI仕事が奪われるという悲観論は

    『アナロジア AIの次に来るもの』アナログ王国序説ーーデジタルを超えた次の時代を読む方法 - HONZ
  • 『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 - HONZ

    『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 一見、ライトノベルを思わせるタイトルだが、書は紛れもない実話である。ただし著者の半生は、まるでラノベの主人公のようにユニークだ。 著者は1992年千葉県生まれ。昔からどこまでも内向的で、考えすぎる人間だったという。そんな性格もあってか、大学受験や恋愛、就活の失敗などで心を壊し、大学を卒業した2015年からは、千葉の実家で引きこもり生活に突入。週一でバイトは続けていたが、それもコロナでなくなってしまい、さらに追い討ちをかけるように2021年からはクローン病という自己免疫系疾患の難病も患う。 驚くのはここからである。著者は引きこもりのかたわら、ルーマニア語を身につけ、2019年から小説や詩を書き始めた。その作品は現地の文芸誌に掲載されただけでなく、《Istoria literaturi

    『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 - HONZ
  • 『ザ・パターン・シーカー──自閉症がいかに人類の発明を促したか』 if-and-then思考とハイパー・システマイザー - HONZ

    エジソンやビル・ゲイツもそうなのだという。あるいは、ピアニストのグレン・グールドや、バスケットボール選手のコービー・ブライアントも。彼らはみな「パターン・シーカー」、すなわちパターン探しの達人であると考えられる。そして、そのようなパターン・シーカーこそが人類の偉大な発明を導いてきたのだと書は主張する。 書の著者は、イギリスの著名な心理学者サイモン・バロン=コーエンである。彼が「パターン・シーカーこそが人類の偉大な発明を導いてきた」と言うとき、その意味するところはふたつある。ひとつは、上で述べたように、偉大な発明家の多くが卓越したパターン・シーカーであること。そしてもうひとつは、ヒトが身につけたパターン探しの能力こそが、ヒトの進化史において偉大な発明を導いてきたということである。 ならば、そのパターン・シーカーという特性はどのようなものだろうか。それは、簡単に言えば、一見しただけでは明ら

    『ザ・パターン・シーカー──自閉症がいかに人類の発明を促したか』 if-and-then思考とハイパー・システマイザー - HONZ
  • 「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 - HONZ

    「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 バイオベンチャー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチン開発秘録だ。その疾走感が半端ではない。なにしろ、ワクチン開発に取り組むチームを組織した日からヒトに投与するまでわずか88日しか要さなかった。このことからだけでも、その猛烈なスピードが想像できるだろう。 え?ワクチンといえばファイザーとモデルナのmRNAワクチン、それにアストラゼネカとかで、ビオンテックなんて聞いたことない、という人が大多数かもしれない。ごもっともである。しかし、ファイザーのワクチンは、ファイザー社ではなく、ドイツのビオンテック社が開発したものなのだ。そののワクチンについては、ファイザーが資金提供をおこない、50/50の権利を有するという契約がなされている。だから、来なら、ファイザー・ビ

    「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 - HONZ
  • オランダ史上最悪の犯罪者と呼ばれた兄を告発した妹による、壮絶なる体験記──『裏切り者』 - HONZ

    書『裏切り者』は、映画にもなった「ハイネケンCEO誘拐事件」の実行犯として知られ、その後も犯罪を重ね「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダーについて書かれた犯罪ノンフィクション/体験記である。 現在ウィレムは逮捕され、終身刑をらっているのだが、彼の罪を告発し終身刑にまで追い込んだのは実の妹で、書の著者であるアストリッド・ホーレーダーなのだ。書は著者が幼少期を過ごした1970年代から、ホーレーダー家がどのような家庭環境だったのか。また、著名な犯罪者の実の妹として日々を過ごすとはどういうことなのか。兄を告発すると決めた決定的な理由、そして告発を決めた後の戦いが、まるでスパイ物の小説のように展開していくことになる。 実の妹なんだから信頼されているだろうし、告発してもバレようがなくない? と思っていたのだがこれが思った以上に壮絶な関係性で、妹だから許され

    オランダ史上最悪の犯罪者と呼ばれた兄を告発した妹による、壮絶なる体験記──『裏切り者』 - HONZ
  • 『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ

    「中世ヨーロッパ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「疫病と飢饉」、「魔女狩り」、「異端審問」……。代表的なものを挙げたが、いずれにせよ、西ローマ帝国が滅んだ5世紀末からの約1000年間に明るく進歩的な印象を抱く人は少ないだろう。 だが著者は、そうしたネガティブなイメージはここ200年ほどの間に私たちに植え付けられた誤解だと説く。書には、中世に関する11の「フィクション」が登場する。多くの人は、どれも一度は耳にしたことがあるはずだ。 中世の人々は地球が平らだと思っていた。風呂にも入らず、暮らしは不潔で腐った肉も平気でべた。教会は科学を敵視し、今では誰も疑うことのない説も教会の権威によって迫害され続けた。何の罪もない女性たちが何万人も魔女として火あぶりにされた。 これらの説は、文化上構築された「中世」にすぎず、前世紀までに歴史学の専門家によって否定されている。だが、今でも大きな顔をして

    『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』「暗黒時代」という神話はなぜ生き残ってきたのか - HONZ
  • 『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ

    何か不測の事態を前にすると、読みの習性でついに手が伸びてしまう。 中国・武漢で発生した原因不明の肺炎に世間が注目し始めた頃、読み直さねばと書棚からひっぱり出したのは、『パンデミックとたたかう』というだった。 このは、SF作家の瀬名秀明氏が東北大学医学系研究科教授(当時)の押谷仁氏と新型インフルエンザについて議論を交わしたものだ。2009年に出ただが、押谷氏の発言に教えられるところが多く、その名が強く印象に残っていた。 付箋を貼っていたところをいくつか抜き出してみる。 「感染症の危機管理の基は、わからないなかで決断をしなくてはいけないことです。その最終的な判断は、やはり政治家がすべきだと私は思います」 「ウイルス性肺炎は、現代の医療現場でも、治療するのが非常に厳しい肺炎です」 「重症者が多発した場合の治療の課題は、医療体制の問題として、日はICUのベッドや人工呼吸器が限られてい

    『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ
  • 『闇の脳科学「完全な人間」をつくる』 その先駆者の栄光と悲劇、そして「脳操作」の現在と未来 - HONZ

    同性愛の「治療」を受ける男。娼婦を相手に性的興奮を得ることができれば成功だ。男の頭には電極が差し込まれており、後頭部から4のコードが隣の部屋まで延びている。その部屋では、研究者たちが電極から送られてくる計測値を見ながら、男の快楽中枢に適切な電気刺激を与える。 まるでSFだ。しかし、未来の話としてはおかしいと思われないだろうか。現在の状況を考えると、LGBTが治療対象となる未来などやってくるはずがなかろう。未来物語でもなければ架空のストーリーでもない。米国で実際におこなわれた人体実験なのである。 書『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』の冒頭シーンがこれだ。いったいどんな内容のなのか。意識せずとも期待感が広がっていく。まるで脳のどこかに電気刺激が与えられたかのように。 この実験をおこなったのは、精神科医ロバート・ガルブレイス・ヒース。統合失調症病などさまざまな精神疾患に対して、患者

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  • 彼女はいったい何者なのかー。『女帝 小池百合子』 - HONZ

    この2ヶ月間、彼女を見かけない日があっただろうか。テレビや新聞、ネットで私たちは毎日のように彼女の姿を目にし、彼女が語る言葉に耳を傾けてきた。誰もが彼女の顔と名前を知っている。そこには見慣れたリーダーの姿があった。 だが書を読んだ後は、奇妙な感覚にとらわれるに違いない。彼女のことを確かに知っていたはずなのに、急に見知らぬ人間のように思えるからだ。そして次の瞬間、戦慄が背筋を駆け上る。「この人は、いったい何者なのか……」 書は女性初の東京都知事であり、また女性初の総理候補とも目される小池百合子の知られざる半生を描いたノンフィクションである。書の発売日前後に、ある新聞のコラムで「暴露」と表現しているのを見かけたが、おそらくコラムの書き手はこのを読まずに書いたのだろう。著者は3年半にわたる綿密な取材を通じて、百人を超える関係者の証言を集め、小池が長年にわたり隠し続けてきた経歴にメスを入

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  • 『忍者学講義』忍者、お主は何者ぞ⁉ - HONZ

    「忍者学」は立派な学問である。三重大学では、伊賀地域を中心とした忍者に関する教育研究を推進し、その成果を広く国内外に発信する国際的な忍者研究の拠点として、また伊賀の地域創生に資することを目的として2017年7月1日に国際忍者研究センターを開設し、忍者研究に取り組んでいる。 『忍者学研究』は副センター長で三重大学人文学部の山田雄司教授のもと、文系だけでなく理系、医学系の研究者が一丸となって、忍者・忍術を真っ正面から研究し、現在まで判明した「忍び学」をまとめたものだ。 まずは品化学の分野から忍者に迫る。漫画やドラマなどで目にする丸薬のような忍者。携帯していれば長期間の探査行にも耐えられ、エネルギーの補給となる夢のような事が当に存在するのか。 結論から言うと存在する。古くから伝わる忍術書に書かれたレシピ通りに苦労して作ると、意外にもべられるものが出来上がった。栄養的にも、万能とはいえ

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  • 「知の巨人」立花隆のすべてがここに『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』 - HONZ

    立花隆といえば、誰がなんと言おうと言おうまいと『宇宙からの帰還』である。立花隆の最高傑作というだけでなく、日のノンフィクションとして、他を全く寄せ付けない、世界に通用する空前絶後の作品だと断言できる。 1983年に出版されたその以来、立花隆のを何冊読んできたかわからない。それに、露出の多い人なので、ある程度のことは知っていると思っていた。しかし、このを読んでみてわかった。ほとんど知らなかったということが。 単なる好奇心に満ちた「知の巨人」ではない。権力を恐れる必要はない、という教えをキリスト教徒であった母親から学んだ、こわいもの知らずの武闘派である。まずは、幼少期を北京で過ごした後、ただひたすら歩いた記憶しかない引き上げ体験が語られる。 あの体験の影響がすごく大きいと思うのは、その後の人生で、どんな大きな状況変化に出会っても、平気なんですよ。 小学校時代はIQテストでとんでもなく高

    「知の巨人」立花隆のすべてがここに『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』 - HONZ
  • 『暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病』平等は破壊の後にやってくる - HONZ

    ものすごいだ。まずはページ数。索引と原注だけで141ページ。文582ページ。重い。 次は帯。「核戦争なき平等化はありえるか?」という文章が美しい縦書きで書かれている。不意をつかれてギョッとする。横書きには第二次世界大戦、毛沢東の「大躍進」、欧州のペストという千万人単位が死亡した事件の結果として起こった平等化、生活向上、賃金上昇などの例を上げている。さらにギョッとする。 あまりに分厚いので、とりあえず序章と第4章「国家総力戦」を試し読みしてみた。第4章は明治維新以来の日の不平等の激化と戦争による解消だ。浅学な評者としては概ね正確だとしか評価することはできないが、これだけでヘタな新書一冊分の情報量がある。 もちろんトマ・ピケティの総括にも触れており、その検証も行っている。トマ・ピケティの総括とはすなわち 「かなりの部分まで、20世紀の不平等を緩和したのは、経済的、政治的な衝撃を伴う戦争

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  • 『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』世界の裏社会から見えてくる、犯罪者の思考と人間の深い業 - HONZ

    TBS系テレビ番組「クレイジージャーニー」に出演しているジャーナリスト、丸山ゴンザレスの著書だ。番組をご覧になった方ならばご存じかもしれないが、著者はさまざまな国の裏社会を取材してきた人物だ。 書は著者が取材した殺し屋や売春婦、ドラッグディーラーやジャンキーなどといった裏社会に生きる人々が、何を考えて犯罪という道を選び、行動するのかを考察した1冊である。著者自身が言及しているように、「思想」といっても体系だったイデオロギーのようなものではなく、犯罪者の思考を読み解くことに重点が置かれている。 書は第1章から強烈だ。取材対象はジャマイカの首都にあるスラムに暮らす「現役の殺し屋」だ。現れたのは貧相な体格に暗く沈んだ目をした青年。取材を続けている最中に殺し屋の携帯電話が鳴る。相手はクライアント。なんと用件は殺しの依頼だ。しかも動機が「自分を振った女を殺してほしい」という、それだけだ。著者は衝

    『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』世界の裏社会から見えてくる、犯罪者の思考と人間の深い業 - HONZ
  • 忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 - HONZ

    忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する』 もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。書(通称・まいボコ)を一言で説明するならば、明治時代、夏目漱石や森鴎外といった純文学作家の作品よりも人気を博した忘れ去られしエンタメ作品(著者は「明治娯楽物語」と呼ぶ)が多数存在し、それらをツッコミ入れつつざっくばらんに紹介しまくるだ。なぜ現在この作品群の知名度が全くないかというと、当時はまだ文学が未成熟、手探り状態にあり、現代の水準からすればどれもこれも「小説未満」で、時代の流れの中で風化してしまったためだ。要するに今読んでもつまらないのである。 とはいえ、どんなに粗雑でくだらなくても、そこには作

    忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』 - HONZ
  • 『バブル 日本迷走の原点』時代を見事に描き切った総括、形をかえた自伝 - HONZ

    永野さんに初めてお会いしたのは1982年頃だった。彼は既に名を馳せたバリバリの兜町担当の日経済新聞記者で、私は人事異動で初めて証券局勤務となった新米の課長補佐。当時の日は第一次石油ショックの教訓を生かし、先進国の中では比較的うまく第二次石油ショックを乗り切ったころで、世界における日のプレゼンスが高まりつつある時代であった。行政上の課題として二つの「コクサイ」、即ち日米金融協議をはじめとする国際化の流れへの対応と、大量の国債を消化するための環境整備を抱えていた。 そんな中で経験豊富で鋭い洞察力を備えた永野さんとの会話は刺激的であり、市場や金融を見立てる時の考え方を養うのに随分と役に立った記憶がある。たまに一緒に飲む時も話に引き込まれ、気がついたら夜明けだったことが二回ぐらいあった。実は、そうして朝まで飲むたびに翌日、永野さんが心臓発作で倒れられ、生命の危機に瀕するという事態が続いたので

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  • 『民主主義の死に方 二極化する政治が招く独裁への道』 民主主義が民主主義を殺す - HONZ

    世界各地の独裁政治を研究してきたハーバード大学教授である著者が、民主主義がどのように、そしてなぜ死ぬのかを追求する。著者はあらゆる場所、時代の民主主義が死んでしまった事例を紹介しながら、当たり前に享受している民主主義がいかに微妙なバランスのうえで成り立っているものなのかを教えてくれる。幅広いケースを考慮する書だが、議論のフォーカスはアメリカおよびトランプ現象に当てられいるので、日々伝えられるアメリカ政治の異常事態の意味がより良く理解できるようになるはずだ。米連邦最高裁判所判事にカバナーが選ばれたことがどれほどの意味を持つ事件なのかを思い知る。 民主主義が崩壊する瞬間といえば、銃を持った兵士や市民をなぎ倒そうとする戦車を思い浮かべるかもしれない。たしかに、アルゼンチン、ブラジル、ガーナやパキスタンのような冷戦時の民主主義崩壊の4分の3は、軍事力を用いたクーデターによってもたらされた。しかし

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  • 『GHQと戦った女 沢田美喜』 - HONZ

    戦後70余年。神奈川県大磯のエリザベス・サンダース・ホームで育った混血の孤児たちも、思えば、すでに老齢にさしかかっているだろう。 ホームの創設者、沢田美喜(1901~80年)は三菱財閥の創始者、岩崎彌太郎の孫である。男ならば当然、事業を発展させたはずだが、美喜は20歳で外交官、澤田廉三と結婚し、南米や中国、欧米各国で華やかな社交を繰り広げた。ところが、4人の子女を育て終えた40代半ばで敗戦を迎え、財閥解体で私財の大半を失うと、ほどなく戦争の落とし子らの救済に乗り出す。78歳で亡くなるまで、彼女が母親代わりとなって養子縁組をととのえたり、社会へ送り出した子供は二千人にも上る。 それはまさしく、占領期の日の復興、安定を支えた偉業に違いない。だが、大財閥の娘がなぜ、黒い肌、碧い瞳の、路傍に捨てられることすらあった混血の赤ん坊を、資金不足に悩まされながらも養育しようと決めたのか。どこか腑に落ちな

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  • 『幻の惑星ヴァルカン』 それはいかにして「発見」され、いかにして葬り去られたのか - HONZ

    水・金・地・火・木・土・天・海・冥。かつてそう教えられた太陽系惑星のなかから、2006年に冥王星が除外されたことは記憶に新しい。だがじつは、19世紀後半にはそれら惑星候補のなかにもうひとつ別の名前が挙げられていた。書の主役は、その幻の惑星たる「ヴァルカン」である。 ヴァルカンはその生い立ちからして冥王星とは異なっている。というのも、そもそもそんな星は存在すらしていなかったからだ。では、存在しないものがいかにして「発見」され、そして最終的に葬り去られることになったのか。書は、その誕生前夜から臨終までを、関係する天文学者や物理学者にスポットを当てながら、ドラマ仕立てに描いていく。 ストーリーは、17世紀後半、ニュートン力学の登場から始まる。周知のように、その偉大なる体系は、惑星の運動を含む広範な現象の統一的説明を可能にした。いや、説明だけではない。驚くべきことに、その体系は未知の現象に対す

    『幻の惑星ヴァルカン』 それはいかにして「発見」され、いかにして葬り去られたのか - HONZ
  • 『経営の針路』日本企業の経営は、世界からどのように乖離してきたか? - HONZ

    書は、マッキンゼーの日支社長からカーライル・ジャパンの共同代表を経て、現在、早稲田大学ビジネススクールの教授を務める平野正雄氏の最新刊である。 平野氏がコンサルタントとプライベートエクイティファンド経営者としての経験を通じて学んだ、過去30年の間に日企業の経営が世界からどう乖離してきたかという歴史と今後の処方箋が丁寧且つ論理的に語られている。 書のポイントを短くまとめると、今、企業経営における世界の最前線は、日人がステレオタイプに抱きがちな「株主価値至上主義」の先を行っており、資市場と企業との関係について言えば、最早、経営の規律の拠り所を株主価値には求めておらず、自らのビジョンと理念に基づいた経営で業績を高め、新たな価値観を提示することで人材を引きつける、次の段階に移行しているということである。 日ではいまだに多くの企業で「いい会社(good company)であり続けること

    『経営の針路』日本企業の経営は、世界からどのように乖離してきたか? - HONZ
  • 『裁判所の正体 法服を着た役人たち』司法への信頼がガラガラと…。 - HONZ

    凄いを読んでしまった。信じていた司法への信頼がガラガラと崩れていく。私はなんという国に暮らしているのだろう。 書は「文庫X」として大ヒットとなった『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫)の著者、清水潔が、元裁判官で『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(ともに講談社現代新書)の著者、瀬木比呂志との対談を希望したことで実現した。仕事柄、警察官や検察官、弁護士などと向き合うことが多い清水だが、裁判所や裁判官について何も知らないも同然であることに気づいたからだ。 法廷の壇上にたつ黒い法服姿の人はどんな人たちでどのくらいの報酬で、普通の日は何をしているのか。そんな俗物的興味とともに、なぜ刑事裁判の有罪率が99.9%なのか、なぜ民事裁判の国家賠償請求は原告が勝つことが難しいのか、何より『殺人犯はそこにいる』で清水が追及した真犯人が捕まらないのはどうしてかを瀬木にぶつけ

    『裁判所の正体 法服を着た役人たち』司法への信頼がガラガラと…。 - HONZ