誰もが羨む少女が抱えていた深い闇 子どもの頃のTさんは、みんなの憧れの的だった。成績抜群だったうえに、いつも学級委員としてリーダーシップを発揮し、誰にでも親切だったので、人望も厚かった。しかも、容姿も端麗で、運動も絵も書道も立派にこなし、ピアノの腕前は音大に進むことを勧められるほどだった。しかも、実家は会社を経営する地元の名士で、どんな人生が待っているのかと羨うらやまれるばかりだった。 そんなTさんが、実は深い心の亀裂を抱えて暮らしていたことなど、誰も思い及ばなかっただろう。 不幸の始まりは、Tさんが三歳のときに両親が離婚したことだった。その一年ほど前から、両親の間はぎくしゃくしていて、母親は、下の妹だけ連れて、よく実家に帰っていた。そんなときも、またその後、母親がいなくなってからも、Tさんの面倒をみてくれたのは祖母だった。家にはお手伝いさんや従業員が始終出入りしていて、いつも賑にぎやかだ