前評判で「ディストピア物」と聞いていて、「1984」とか「華氏411」とかを想像していたんだけれども、全然違った。というか、物凄いユートピア小説だった。舞台となる世界は現代ととてもよく似ていて、大量消費と現実を楽しむことが奨励されていて、『市民幸福は義務です』とは全く違う形で人間の幸福が保障されている世界。作中で、野蛮人からは「愚者の楽園」と呼ばれているけれども、もし、そちらの世界を選べるのなら、そちらを選びたいくらい。 豊かさがすべてそろっていて、苦痛が排除されている。『私が死んでも替わりがいるもの』個人の交換可能性が内面レベルと技術レベルで完結していて、自己喪失の不安が無い世界。不安と恐怖と絶望のない優しい世界。 ただ唯一ないものが、「苦痛に伴う内面の豊かさ」 ナウシカで言われている「生き物の高潔さというものは、その生き物の得た苦痛による」*1、それが無い、という世界。 そういう意味で