先日、大学院生の論文指導をしていて「え、こんな当たり前のことがわかってないの?」と驚くことがあったので、念のために書いておく。 「敵を批判する」というスタイル 私も若いころ似たようなアドバイスを何度も聞いたことがあるのだが、 もっと、論敵をはっきりさせたほうがいいよ。その敵をしっかり批判すれば、何が言いたいのか、自分の主張がはっきりするし、その研究を乗り越えていることがはっきりするので、オリジナリティも示せるから。 といった感じのアドバイスをする社会学者が今でもけっこういるらしい。しかし、私自身は自分の身分が安定するまで論文の中で敵を明示したうえで批判するということはしてこなかった。身分が安定した後も、ほとんどそのようなことはしていないと思う。口頭で悪口を言うことはたまにあるのだが、論文の中では特定の研究を攻撃することは避けている。それは攻撃型の研究は、研究成果の平均的な評価を引き下げる恐
例によって、ごく一部の報告しか聞いていないが、その中から私の独断と偏見で選ぶ、今回の日本社会学会大会ベスト報告は、 渡邊勉「兵役における不平等:SSM調査データによる徴兵・招集の分析」 だーー! 第二次世界大戦時に多くの若者が兵役についたことは周知の事実であるが、このような不幸がすべての若い男性に同じ確率で生じたことなのか、それとも社会階層によって兵役というリスクは異なるのか、という問題が、この研究のリサーチ・クエスチョンである。社会階層と社会移動全国調査 (SSM) は 1955年にスタートしているが、SSM では生まれてから調査時点までの職業経歴(職歴)をすべて尋ねているので、この職歴データからその人が兵役の経験があるのかどうかがわかる。 学歴との関連を見ると、高等小学校と中等学校(戦時中なのでいずれも旧制の学歴)でもっとも兵役率が高く、旧制高校以上で最も低い。尋常小学校卒は、両者の中
ニューレフト運動と市民社会―「六〇年代」の思想のゆくえ ニューレフト運動と市民社会―...の他のレビューをみる» 安藤 丈将 世界思想社 ¥ 3,240 (2013-07-13) 安藤 丈将, 2013, 『ニューレフト運動と市民社会: 「六〇年代」の思想のゆくえ』, 世界思想社. 日本的なニューレフト思想の挫折と展開を「日常生の自己変革」という概念を中心に論じた本。事実関係や背景を簡潔にわかりやすく書いてあるので、新左翼系の社会運動の歴史について学びたい人にはお勧め。ただし、私はこの問題については素人なので、事実関係等の記述の正確さについてはわかりません。 安藤によればニューレフト運動とは左翼の社会運動ではあるが、 ソ連型の国家社会主義には否定的(例えばスターリンによる粛清やハンガリー動乱への軍事介入には批判的)であるという点、 階級問題を必ずしも最優先事項とは考えず、その他の社会問題(
Yujia Liu and David B. Grusky, 2013, "The Payoff to Skill in the Third Industrial Revolution," American Journal of Sociology, Vol.118 No.5, pp.pp. 1330-1374. スキルを8種類に分類して、それらの個人収入に及ぼす効果が 1979〜2010 年のあいだにどう変化したか調べた論文。米国の経済学ではニューエコノミー論がさかんなようで、とうぜん社会学者からはこれに対する批判が出るのだが、この論文もその一つ。ニューエコノミー論とは1980年代以降、コンピュータ技術などの発展によって米国の経済構造が大きく変化した、といった議論の総称だと思うが、この論文で問題になっているのは、Skill Biased Technological Change (SBT
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ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫) ベストセラー小説の書き方 (...の他のレビューをみる» ディーン・R. クーンツ 朝日新聞社 ¥ 756 (1996-07) Dean R. Koontz, 1981, How to Write Best Seller Fiction, Writer's Digest (=1996, 大出 健 訳『ベストセラー小説の書き方』朝日文庫). 米国のベストセラー作家が書いたハウツー本。何しろ30年以上前に出版された本なので、出版業界についての解説は今ではいささか古くなっていると思われるが、少なくとも当時の状況の一端が垣間見られて興味深かった。Koontz が目指しているのはベストセラー小説の書き方を教えることであって、学者にウケル純文学の書き方ではない。長く多くの人に読み続けられる真の名作は純文学から生まれるのではなく、一般大衆向けの小説であるという。デ
来年度の卒論指導に向けて、今年度の反省や感想を簡単にまとめておこうと思う。今年感じたのは、 アニメやマンガなどを批評する卒論は難しそうだということである。なぜか流行歌の研究は比較的うまくいっているような気がするし、アニメや漫画、ゲームなどにしても、必ず失敗することを運命づけられているというわけではないだろうが、これまでの卒論の例を見る限り、失敗率が高そうな気がする。印象論で言うと、失敗率が高い理由は3つ考えられる。 まず、深く考えず安易にメディア批評を選ぶ学生が多いこと。メディア現象は身近な社会現象だろうし、メディア批評の中には面白いものもある。学生がこういったテーマに魅力を感じるのはよく理解できるのだが、読んで面白いからといって自分が面白いものをかけるとは限らない。メディア批評の論文が『社会学評論』や『ソシオロジ』のような主要な社会学雑誌に載ることはまれだと思うが、それはメディア批評をオ
Takehiko Kariya, 2010, "From Credential Society to ``Learning Capital'' Society: A Rearticulation of Class Formation in Japanese Education and Society," Hiroshi Ishida and David H. Slater (ed.) Social Class in Contemporary Japan: Structures, Sorting and Strategies, Routledge, 87-113. 日本は学歴社会から「学習資本」社会へと再編され、そのせいで階級間格差も拡大した、という Kariya の信念を表明したエッセイ。学歴社会では労働者の訓練可能性 (trainability) が重要視されたが、臨教審の答申における個
Hiroshi Ishida, 2010, "Does Class Matter in Japan? Demographics of Class Structure and Class Mobility from a Comparative Perspective," Hiroshi Ishida and David H. Slater (eds.) Social Class in Contemporary Japan: Structures, Sorting and Strategies, Routledge, 33-56. 日本の階級構造や世代間移動率を米独と比較した論文。中根千枝のような日本特殊論者や、逆に富永健一のような産業化論者に従えば、日本では階級は重要ではない。中根に従えば欧米では階級に従った集団形成や葛藤があるかもしれないが、日本ではむしろ企業が階級にかわる重要な組織原理だ
Witold J. Henisz, Bennet A. Zelner and Mauro F. Guillén, 2005, "The Worldwide Diffusion of Market-Oriented Infrastructure Reform, 1977-1999," American Sociological Review, Vol.70 No.6, pp.871-897. 電話産業と電力産業の民営化を含む市場志向的な政策が世界的に伝播していくメカニズムについて検討した論文。いわゆる新自由主義的経済政策は、ケインズ主義的な経済政策と対置され、ケインズ主義が需要側 (demand-side) の政策を重視するのに対し、新自由主義は供給側 (supply-side) を重視するという。ケインズ主義は財政出動を通して需要を創出し、完全雇用を実現しようとするのに対して、新自由主義は
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