70年代初頭の幼少期、都バスに乗るのが楽しみだった。昔のバスの床面は木の板で探すとだいたい何処かに1cmくらいの丸い穴が空いていた。その小さな穴を覗いてはビュンビュンと流れ去るアスファルト路面を眺めるのが好きだった。 ある日、渋谷へ向う明治通り沿いのバスの中から異様な光景を目にする。巨大なピエロの顔のオブジェが壁に埋め込んである、子供が見たら「怖い」と思うタイプの極彩色の見世物小屋のような建物。大人になってから知るのだが、その建物は寺山修司率いる劇団・天井桟敷の劇場だったのだ。店舗デザインはサイケデリック・ムーブメントを代表するグラフィックデザイナーの粟津潔。近年になりその天井桟敷の話を母に話すと『そうそう、うちの店に来てたバイトの子。天井桟敷の劇団員だったのよ』と驚きの説明を受ける。そう言えば一時期、ヒッピー風のロングヘアのお兄さんが母の経営するバーに出入りしていた。その店の名は「ベージ
