12.2017 Cover story フランジパニの花 バリにある小さな家という名のホテルに泊まり、その隣の花の岬という名のハイダウェイに毎晩ビールを飲みに行った。萱葺き屋根が少しかかっただけのバーで、ビーチの小道に沿って作られている。カウンターの向こうには暗闇のなか水平線から隆起する白い波頭が真一文字に見える。どの夜も客はいなかった。古くからのバーテンドレスと’very quiet’と言って笑った。毎晩、本当に誰もいなかったのだ。波音だけが響いた。 世の成り立ちや制度や建築はフィクショナルだから、旅で泊まる宿は高級すぎても安すぎてもいけない。ちょっとバラけた感じの中級ホテルがいいだろう。ラマンの冒頭でデュラスが嵐の通り過ぎた後の顔の方が好きですと言われたとか書いてあったが、それと同じで滞在する場所もそんな所がいい。一人で旅に行くならば媚も衒いも気遣いも必要ないので徹底的に自分の価値感を