60歳になったばかりの第16代目坂東彌十郎氏は,男性のみが演じる日本の伝統的・民衆的演劇である歌舞伎の役者である。本紙は東京にて同氏へのインタビューを行った。 歌舞伎役者が女性を演じるときには,女性らしさを特に声及び仕草で強調する。フランス人哲学者ロラン・バルトが,著書『表徴の帝国』の中で指摘したように,歌舞伎役者の隈取は,道化師とは違い,「人間味をなくしたり,滑稽さを出すためのものではなく」まったく逆の役割をもつ。バルト氏が歌舞伎役者の顔は「化粧されているのではなく描かれている」と述べていることに,坂東氏は注目した。坂東氏は,「顔で女性になったり,それをまねたりしているのではなく,役者は女性そのものを表している」と指摘した。 マドリードで上演される作品のように,歌舞伎には,化粧した男性が演じる遊女やその遊女に惚れてしまう客の話が多くある。こうしたテーマは欧州ではあまり見られない。坂東氏は