堤未果『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』 雨宮処凛(下)[掲載]2009年2月22日■米軍への勧誘にみる 貧困と戦争の親和性 1月に誕生したオバマ政権は、「テロとの戦い」の主戦場をアフガニスタンと位置付け、米軍を増派する方針だという。テロとの戦い。本書は、03年のイラク戦争に「動員」された貧困層の若者たちを中心としたルポルタージュだ。 02年にアメリカで成立した「落ちこぼれゼロ法」には、「すべての高校は、生徒の親から特別な申請書が提出されないかぎり、軍のリクルーターに生徒の個人情報を渡さなければならない」とある。拒否した場合は、政府からの助成金がカットされる。生徒の携帯番号まで入手した軍は、より貧しく、未来のない若者をピンポイントで勧誘する。「一生時給5ドルのピザ屋の店員でいいのか?」と囁(ささや)きかけ、入隊すれば大学費用を軍が出すので貧困から脱出できる、軍の医療保険が家族にまで適
清張なら「いま」どう描く 先見性と時代的限界2009年2月7日松本清張「砂の器」の碑 社会派推理小説の始祖。作家・松本清張は、よくそんな言われ方をする。動機面を重視して、犯人の人間性を形作った貧困や差別といった社会構造を描くことに重点を置いたからだ。いわば「犯罪動機の下部(経済)構造還元論」。その視座には、金融バブル崩壊後の今日にまで届く先見性と、時代的な限界が併存している。(鳥居達也) ■リアルな社会派始祖の座視 巧妙なトリックや完全犯罪を解き明かし、一件落着。そんな探偵小説が主流だった日本のクライムノベルを清張は一変させた。清張の推理小説がたびたびドラマ化されるのは、そのリアリティーゆえだと考えられる。 典型は「砂の器」だろう。野村芳太郎監督が映画化(74年)し、4回もドラマ化された。 「砂の器」は、殺人事件の捜査の過程で、敗戦後の社会的混乱に乗じた著名な音楽家和賀英良の「禁断の過去」
ネットで暴走する医師たち [著]鳥集徹[掲載]週刊朝日2009年1月30日号[評者]永江朗■匿名で医療事故被害者を批判するとは… 医師不足や“医療崩壊”の原因のひとつは患者側の変化だ、という言い方がある。医療事故などで真相の究明や医師の責任を問う声があがる。ときには刑事事件になることもある。それが現場を萎縮させ、産科医や外科医の不足につながっている、というのだ。だが、患者原因説はどこまで本当だろうか。患者は“クレーマー”や“モンスター”で、医師だけが常に正しいのだろうか。 鳥集徹『ネットで暴走する医師たち』は、医師専用サイトや2ちゃんねるなどで医師が匿名でどのような書き込みをしているのかをルポルタージュした本である。正直いって、そのあまりのおぞましさに胸が悪くなる。 典型的な事例が三つ登場する。脳出血をおこした妊婦が19の病院で受け入れられず死亡した奈良県大淀病院事件。幼児の喉に割り箸が刺
キムはなぜ裁かれたのか―朝鮮人BC級戦犯の軌跡 [著]内海愛子[掲載]2008年12月14日[評者]赤澤史朗(立命館大学教授・日本近現代史)■戦争責任問題への多角的な視点 戦後60年以上たつのに、日本の戦争責任の問題は終わっていない。それは日本政府による戦争被害者への補償が、公平さを欠いていたためである。また戦争の被害と加害の問題は入り組んでいて、理解が難しいからでもある。本書は、朝鮮人元BC級戦犯の運命に焦点を当てて、戦争責任の問題を考察したものだ。 BC級戦犯裁判は、捕虜を虐待した罪で裁かれることが多かった。戦犯裁判の記録から知られるのは、南方の捕虜収容所の凄惨(せいさん)な実態である。そこでは捕虜の食糧と医薬品が決定的に不足しており、コレラや赤痢の伝染病患者が急増していく。 軍は捕虜を使って飛行場や鉄道を建設することを決めながら、捕虜の生存の条件を配慮しなかった。現場では無理な完成予
岐路に立つ「同人誌」 「文学界」で「評」打ち切りに2008年11月11日最後の「同人雑誌評」が載った「文学界」12月号 半世紀以上にわたり、全国の同人誌に掲載された小説を取り上げてきた「文学界」(文芸春秋)の名物欄「同人雑誌評」が、7日発売の12月号で打ち切りとなった。同人の高齢化が進み、寄せられる同人誌が激減したためという。文芸誌の中で同人誌を定期的に紹介していたのは「文学界」が唯一で、かつては多くの作家が輩出した同人誌の役割が岐路に立たされている。 「文学界」の「同人雑誌評」は1951年に始まり、無名の新人や地方の作家の作品を紹介してきた。55年には「太陽の季節」に先駆けて石原慎太郎氏が「一橋文芸」に発表した「灰色の教室」を〈今月第一の力作〉と激賞。60年には柴田翔氏が同人誌「象」に発表した「ロクタル管の話」を高く評価するなど新進作家を発掘してきた。 執筆は4人の評論家が交代でつとめ、
月刊誌 冬の時代 相次ぐ休刊、雑誌の今後は2008年9月13日「月刊現代」の高橋明男編集長「ロードショー」の藤井真也編集長 雑誌、特に月刊誌の休刊が相次いでいる。総合誌、ファッション誌、専門誌とジャンルを問わず、出版社の規模も大手から中堅までいろいろだ。雑誌の世界に何が起きているのか。1日に休刊を発表した講談社「月刊現代」の高橋明男編集長、集英社「ロードショー」の藤井真也編集長にいきさつを尋ね、雑誌の世界に通じるライター永江朗さんの分析を聞いた。(西秀治、竹端直樹) ■情報加速、読者移り気―「月刊現代」高橋明男編集長 休刊発表後、読者や書き手の方の大半が「ノンフィクション分野で唯一、頑張ってきた雑誌なのに」と残念がってくれています。30万部超の時代もありましたが最近は8万数千部。広告はほとんど入らないから、部数の落ち込みがこたえます。 世の中の流れと月刊誌のペースの折り合いが難しくなっても
プレートテクトニクスの拒絶と受容 [著]泊次郎[掲載]2008年8月31日[評者]苅部直(東京大教授)■新学説を拒んだ戦後の知識社会 地震の発生や大陸のなりたちを、板状の岩の運動によって説明する、プレートテクトニクスの理論。これについて知ったのは、1970年代、小松左京のSF小説『日本沈没』が話題になったころのことである。 この理論は、地震研究など地球物理学の世界で急速に支持を集め、当時にはすでに、国際的な定説となっていた。それが子供にまで知られるほど、一般社会に広まったのだろう。 しかし、化石や鉱物の分析から日本列島の形成過程を探る、地質学の分野では、プレートテクトニクスに対する拒否反応が続いたという。ようやく受けいれられたのは、80年代なかばであった。 なぜそういう遅れが生じたのか。そこにこの本は、戦後日本の知識社会に特有の要因を見いだす。冷戦構造を背景として、マルクス主義を奉じる学者
「返品自由」か「責任販売」か 小学館、書店に選択肢2008年7月16日 書籍の4割が読者の手に届かずに返品される――。そんな出版流通の現状を改めようと、小学館が今秋、ある試みをする。同社の書籍を販売する書店が、取引条件を選べるようにするのだ。それは(1)買い切りが原則で販売額の35%の粗利益が得られる(2)返品は自由だが利益は2割程度、の二つ。同じ本について複数の取引条件を設けるのは業界初の試みだ。 出版業界では、出版社が価格を拘束する再販制度がある代わりに、書店に返品を認める「委託制度」が一般的。だが、返品が自由なために、4割もの返品率が恒常化し、出版不況の主因となっていた。 返品なしの買い切りにする代わりに高い粗利益を保証する「責任販売制」の試みも一部にあるが、経営が苦しい書店にはリスクが大きく、広がっていない。 そこで小学館は「返品自由」か「責任販売」か、書店が選べるようにする。技術
思想的砂漠にオアシスを 新著注目の大澤真幸氏2008年7月12日 社会学者の大澤真幸氏(京都大教授)の新著3冊が注目されている。『〈自由〉の条件』(講談社)、3万部を超す売れ行きで版を重ねる『不可能性の時代』(岩波新書)、そして『逆接の民主主義』(角川oneテーマ21)。北朝鮮問題など、具体的な政治課題への提言も初めて試みた。「思想的砂漠」にオアシスをつくるトータルな構想を示すことこそが、知識人の責任だという。(藤生京子) ◇ 刊行は、意図して時期をそろえた。ポスト近代の世界と日本が直面し9・11で決定的になった「自由」の困難と、そのゆくえを、原理的思考―時代認識―具体的提言という3段階構成で明らかにしたい、と考えたからだ。 その理論的思考の試み『〈自由〉の条件』は、超越的な存在を指す「第三者の審級」が退いた高度資本主義社会で、私たちが不確定な選択を宿命づけられる構造を解き明かす。共存や連
全共闘の内部、克明に モノクロ140点、写真集刊行 2007年10月23日 60年代末、大学や社会に異議を申し立てる学生らによる「全共闘」運動が全国に広がった。その象徴ともいえる東大の運動を追った写真集「東大全共闘1968―1969」(新潮社)が先週刊行された。「闘争を内部から撮影した唯一の写真家」とされる渡辺眸さんのモノクロ写真約140点を収め、元代表の山本義隆さんが長文の解説を寄せている。 写真集から。目黒区の東大・駒場キャンパスに机を積み上げたバリケード=渡辺眸氏撮影 東大では68年7月に全共闘が結成され、10月に全学部が無期限ストへ。渡辺さんは友人を通じて山本さんを知り、東大に足を運ぶようになる。安田講堂など主な建物は全共闘が封鎖していたが、渡辺さんは、山本さんが白布に「全共闘」と手書きしてくれた腕章をつけてバリケードを越えた。 「内側は騒然としていたが、闘うための生活空間。非日常
■ようやく開かれた重い扉 きわめて重要なテーマなのに、ほとんど誰も取り上げる専門家がいなかった。現に、この問題について本格的な一冊を著した精神科医は、著者が初めてなのである。 多数の症例のうち一例だけあげると、在日の父と日本人の母との間に生まれた男性のケース。物心ついて父が朝鮮人と知らされ、「他人には絶対口にしない秘密」となる。やがて過剰なほど日本人として振る舞いだし、腕に「日本男児」の刺青(いれずみ)を入れ、職を転々とした末に入院。幻聴と迫害妄想が認められた。 これは決して極端な例ではないと、在日の取材をしてきた私は断言できる。彼に限らず、「朝鮮へ帰れ」といった幻聴や、警察に監視されているという妄想は、在日の日常では幻聴でも妄想でもない現実だからである。 在日の場合、アイデンティティーの葛藤(かっとう)が思春期特有の病理ではなく、初老期でも顕在化しうると著者は書く。その際「ほとばしり出る
書店員が選ぶ本屋大賞が小説の売れ行きを左右し、書店員の出す推薦コメントが批評家以上に影響力をもつ。そして、「書店が舞台になっている小説」にも注目が集まり始めている。 大崎梢さんのデビュー作『配達あかずきん』(東京創元社)は、女性書店員と女子大学生アルバイトのコンビが、謎解きに活躍するミステリーだ。無名の書き手だったにもかかわらず、「本の雑誌」が選ぶ上半期エンターテインメント・ベスト10の2位に選ばれた。 この時のベスト10では、有川浩さんの『図書館戦争』(メディアワークス)が1位、古書店を営む大家族を描いた小路幸也さんの『東京バンドワゴン』(集英社)が4位に選ばれ、「本もの」が3作までランクインしている。 大崎さんはこの春まで書店員だった。自分ではあたりまえになっているようなエピソードを書店好きの友人に話すたびに、へえっと驚かれることが執筆のきっかけになった。 たとえば本のカバー。「おかけ
■食文化、韓国にぜったい負けてる 日本に生まれて日本に育って日本語しかできず、好きな人も好きなものもみんな日本モノであるから、日本でずっと暮らしていくと思う。夏の暑いのは往生するが、それなりにいいところだ、日本。 しかし不満は食べ物だ。 いや、いろんな食材はあるしいろんな国の食べ物食べさせるレストランもありますけど(でも今住んでるうちの近所にはないですけど)、そうじゃなくて、日常の、食。あり合わせのもので食べる昼ご飯みたいなもの。基本の食。 というのも、この『韓国の美味しい町』を読んでいましたら、出てくる料理出てくる料理、みんな旨そうで旨そうで。 もちろん「美味しい町」という本だから、美味しいもんばっかり紹介しているのはわかる。いつもこんなものを家で食べてるんじゃないってこともわかる。でもどうも、基本的に韓国のほうがいいもの食べてるとしか思えないのだ。日本と韓国。同じアジア人、顔も似たよう
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