ブックマーク / ncode.syosetu.com (42)

  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 90話 ベッドの前に立つと、大きなものを取り出した。

    座った状態で、サイドテーブルの上にのった事に向かい合う。 「待たせてごめん、じゃあべよ」 これで、透析は大丈夫になったけれどトオルとゴブリンに謝る。 俺のせいで、事をべるのを遅らせてしまった。 「いただきます……」 俺は事に対して挨拶をする。 「「いただきます」」 ゴブリンもトオルもしっかりと挨拶をすると、事に取り掛かっていく。 ダレンさんはメニューの内容をいつも言ってくれていたけれど、モニカは何も言ってくれていない。 一体……目の前の料理はなんなのだろうか。 メインディッシュは唐揚げっぽい何か。 それと、クリームシチューっぽい何かに肉や野菜が入っている。 唐揚げに添えられている葉物はハート型の丸みを帯びた形状。 主らしきものは、透明のツブツブが茶碗にてんこ盛り盛り。 とりあえず、最初に口に運んだドリンクは昨日飲んだスライムと蛇のスタミナソーダだった。 「うん、うまい。うまい

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 90話 ベッドの前に立つと、大きなものを取り出した。
    ot_nail
    ot_nail 2021/05/21
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 89話 激しすぎて怖い。

    初めはすぐに泣き止むと思っていた。 しかし、ベルさんの身体に入っているトオルは泣き止まない。 こんなに泣くような人だったろうか。 いくら優しく抱きしめられているとは言え、俺の力ではびくりとも動かないこの腕と身体。 トオルの顔はうつむいて、俺の頭の上に大粒の涙を降らせ続ける。 俺の顔はTシャツの生地と柔らかな膨らみの空間に閉じ込められた。 頭上からつたう水滴は、次々と俺の身体やトオルの胸元を湿らせていく……。 途端に苦しみへ誘う(いざなう)、柔らかな感触と濡れた布。 きっと、俺の口と鼻を塞ぐために生まれてきた存在だ。 Tシャツの生地が凶器だったとは。 呼吸ができない焦りで大きく息を吸おうとすると、更に口と鼻に張り付く。 俺は死んでしまうかもしれないと、何度目かわからない恐怖を覚える。 意識を失う前に何とかしなければ。 もう俺は出せる限りの渾身の力を込めて、身体をひねる。 俺のか弱い力でどうな

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 89話 激しすぎて怖い。
    ot_nail
    ot_nail 2021/04/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 88話 俺は涙が止まり、高まった気持ちが治まるまで、そのままでいることにした。

    モニカのやることに気を取られていたので、ベルさんのことなんてすっかり忘れていた。 ベルさんはゆっくりと上半身を起き上がらせると、辺りをキョロキョロしている。 人格交代は無事に終わったのだろうか。 もうひとりの人格は、俺が設定の時に男が好きだとか答えてしまったばかりに生まれた人格らしい。 男の人は嫌いではないけれど、見知らぬ男性の人格とかステータスの低い俺にとって恐怖でしかない。 俺はベッドを静かに水平になるように操作すると鼻の上まで布団を被り、そっと観察をすることにした。 目覚めたベルさんは、まだ状況が分かっていないようで、ただ周りをキョロキョロしているばかり。 蛇退治の話は、このベルさんに伝わっているのか、そこも確かではない。 「男のベルさん、おかえり」 ゴブリンが的確がどうか微妙な挨拶でベルさんに挨拶する。 「ベル……お姉様? お帰りなさいませ」 モニカはよくわからないので、疑問符をつ

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 88話 俺は涙が止まり、高まった気持ちが治まるまで、そのままでいることにした。
    ot_nail
    ot_nail 2021/03/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 87話 俺は心の底から、モニカに感謝した

    「でも、それだと意味ないよ」 俺は反論する。 いくら血液を返したところで、また始めれば血流が取れなくて濃縮してしまう。 それに、首のカテーテルの中に何か詰まれば透析はできなくなる。 解決策なしにHDFを始めても、同じことの繰り返しだ。 「私は透析技術認定魔術師なので御心配なさらず、私なら解決してご覧に入れましょう」 「トウセキギジュツニンテイ……魔術師?」 俺は言いにくい名前を復唱した。 モニカは長い名前の魔術師のようだ。 前の世界の技術認定士なら知っているけれど、魔術師がつくと別物な気がする。 そして、どんなものなのか名前だけでは予想もつかない。 「透析に関する魔法を使うことのできる魔術師なのでございます」 人工透析に詳しいっぽい。 そして、良く分からないものへの不安が巻き起こる。 提案にのってしまっていいものか。 「それに、今ならまだ血液は大丈夫です」 モニカは仄かに膨らんだ胸を精一杯

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 87話 俺は心の底から、モニカに感謝した
    ot_nail
    ot_nail 2021/02/18
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 86話 モニカは不思議な提案をしてきた

    寝たかと思うと、もう一度起き上がるベルさん。 「もう一人の人格の方にも、よろしく伝えてください……」 自分自身によろしく……か、何だかおかしな感じがする。 何回も起き上がるベルさんを見て、無理をしているようにも見えた。 やっぱり、もうひとりの人格になるのはあんまり気が進まないのかもしれない。 「ベルさん、大変だったらホントにやめていいよ。蛇はその内にどっか行っちゃうかも知れないし……」 もう一度だけ止めてみる。 「だ、大丈夫です。大切な人を助けるのが医療機器の役目。私は小林さんのために頑張ります!」 ベルさんは一生懸命に何だかカッコ良さそうなことを言った。 実際に蛇と戦うのは別人格でも、人格交代自体が負担になっているのは確か。 「そう……」 けれど、耳を真っ赤にして言い放ったベルさんの言葉に対して、それしか答えられなかった。 ベルさんは医療機器としての責任感が強くて、真面目過ぎる。 人格交

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 86話 モニカは不思議な提案をしてきた
    ot_nail
    ot_nail 2021/02/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 85話 ベルさんは心配症な方なのかも知れない。

    ベルさんとやり取りしている俺の顔を見て、ゴブリンは何だか悲しそうな顔をしている。 俺は強くなって嬉しいのに、一体何でだろう。 2時間くらい経つと、一時ぺーシングも要らなくなり、ベルさんから伸びていたオーラのようなものがシュルシュルと引っ込んでいった。 「小林さん、そろそろ私……人格交代しようと思います」 ベルさんはオーラのようなものをしまうやいなや、唐突に告げてきた。 「え? ……俺の透析中のモニタリングは誰がやるんですか?」 途端に不安になる俺。 ベルさんが居てくれれば、透析中も安心なのに……急に変わるとかやめてほしい。 ダレンさんもいない……。 「大丈夫。私の代わりができるようにポイント交換しておきます」 ベルさんはどこから取り出したのか、ダレンさんがいつも操作しているタブレットを操作し始めた。 床の上にボワンッと現れたのは野球のホームベースほどの大きさのAED。 コンビニとかに置いて

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 85話 ベルさんは心配症な方なのかも知れない。
    ot_nail
    ot_nail 2021/01/06
  • 異世界転移で治療して強くなる 神とゴブリンと病院の卵 - 4話 ベルゼブブの手下を退治しました

    朝、起きると気分は優れない。 憂そのもの……。 そんな事とは関係なく、治療は進んでいくらしい。 2階の透析室に連れて行かれて、体重を測った。 ベッドが20床ほど並んでいて、その脇に透析の機械が並んでいる。 自分を歓迎してくれているようだ。 そんなに歓迎してくれなくていいよ……嬉しくないから。 心の中で呟いた。 透析の機械には1のダイアライザーと、生理塩水で満たされた透析の回路が準備されている。 血液回路に満たされた生理塩水の透明な色は、向こう側の景色を歪んで映している。 現実も歪ませて、なかったことにしてくれないかな。 他の患者さんはベッドにすでに寝ていて、自分も所定のベッドに案内される。 ベッドの上に横になる。 もう、それしかやることがなかった。 透析室の看護師さんが順番に回って、それぞれのベッドの透析を始めていっている。 隣のベッドのおじいさんの所に看護師さんが来た。 おじいさ

    異世界転移で治療して強くなる 神とゴブリンと病院の卵 - 4話 ベルゼブブの手下を退治しました
    ot_nail
    ot_nail 2020/10/25
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 82話 気が付くと青ジャージに包まれていた

    ベルさんの準備が終わったのなら、俺も2階のプライベートルームに行って支度をしよう。 昨晩はあの部屋で寝ようと思っていたのに、ずっと透析室に居るから病人気分が染みついてしまいそうだ。 大浴場まで行ってもいいけど、ちょっと遠い。 「ちょっと、俺も顔を洗ってこようかな」 二人にさりげなく行き先を告げて、透析室を出ようと思った。 見ると、ベルさんの表情は何となく悲しそうだ。 「ベルさん……もうひとりの人格になるのって初めて?」 医療機器から人型になって間もないのだから、初めてに違いない。 けれど、何か声を掛けなくてはいけない気がして……そんな事を聞いてしまった。 ベルさんはコクンと頷く。 「これから、男の人を受け入れるかと思うとドキドキしてしまいます」 最初から彼女の中にいるのだろうけど、感覚としてはそうなのかもしれない。 何となく、俺は彼女を汚してしまうような気がして罪悪感を覚えた。 夜になって

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 82話 気が付くと青ジャージに包まれていた
    ot_nail
    ot_nail 2020/09/18
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 81話 人格交代のことに気を遣っているみたいだ。

    「やっぱりね……」 ゴブリンは溜息をつくと、またか……みたいな表情で冷たい眼差しを向ける。 やっぱり、当のことを言ったほうが良いのか。 モルフェウス界の話は嘘みたいな話だから、信じて貰えるか不安だ。 「実はモルフィンって言うのは、昔飼ってた犬でさ……。昨晩みた夢の中に出てきたんだ」 この方がしっくりくるな。 「飼ってた犬……」 「それは可愛い四国犬だった。あんなに可愛がったのにフィラリアで亡くなって……悲しかったなあ」 遥か遠くの方を見るような眼差しを意識して、遠くの方へ視線を泳がせた。 「……」 ゴブリンは俺のそんな様子をじっと観察している。 「この建物は不思議な力があるから夢は現実にも影響を及ぼすんだって、それをくれたんだ」 なかなか、いい話を作れた。 「夢は現実に影響を及ぼす……不思議な力」 ゴブリンは俺が言った言葉を反芻すると、何だか嬉しそうな表情になった。 「今朝、お兄ちゃんが

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 81話 人格交代のことに気を遣っているみたいだ。
    ot_nail
    ot_nail 2020/09/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 79話 俺はやや鈍った意識の中で、彼女の顔をぼーっと眺めていた。

    俺は誰もいなくなった透析室の出入り口の方向をただ眺める。 俺の何が悪かったのだろう。 今度も、ベルさんの俺への好感度はプラスとマイナスを行ったり来たりしているに違いない。 ベッドの上に胡座をかいて、考えを巡らせる。 透析室にはカシャカシャという機械音が響き始めた。 ゴブリンは、相変わらずヨダレを垂らしてよく寝ている。 透析の機械の音は気にならないのだろうか。 透析室から出て行った彼女がいたところからは、仄かに柑橘系の香りがする。 ベルさんが手を握っていたのを考えていたら、一連の向こうでの出来事へ疑いを抱いてしまった。 骨折の痛みさえ残っていれば、もっと信じられたかもしれない。 ゴブリンが握っていた手の感触はどんな感じだったか。 入浴中は覚えているのに、途中からは痛みしか思い出せない。 実際にはモルフェウス界なんて存在せず、全てがただの妄想だったのか。 モルフィンやモルフェウス、そして、実家

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 79話 俺はやや鈍った意識の中で、彼女の顔をぼーっと眺めていた。
    ot_nail
    ot_nail 2020/08/17
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 77話 俺の意識はふわふわと揺らぎ始め、そのままどこかへ飛んでいった。

    モルフィンは更に説明を続ける。 「今の君の剣術レベルは1。切れば切るほど熟練度が上がって、総合能力としてレベルが上がるのよ」 あんなに練習したのに……まだ1? 「剣術レベルが1になったから熟練度見えるようになってるはずよ。手のひらを見つめて念じてみて」 剣術レベルが1にならないと見えないのか。 世の中の剣術ができる人はみんな見えていて……俺だけ知らなかったのだろうか。 唐竹    :300 袈裟切り  :175 逆袈裟   :50 右薙ぎ   :75 左薙ぎ   :75 左切り上げ :75 右切り上げ :100 逆風    :75 刺突    :75 剣術レベル :1 唐竹だけ高校の時にやってた面打ちだから数値が高い。 全部合わせて1000だから、合計した値でレベル上がるのかな……。 「10個の斬撃の平均が100上がるごとにレベルがひとつ上がるのよ」 次のレベルには、熟練度を何でもいいから

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 77話 俺の意識はふわふわと揺らぎ始め、そのままどこかへ飛んでいった。
    ot_nail
    ot_nail 2020/08/05
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 76話 モルフィンはサービス精神旺盛なのか?

    エネルギー波が遠ざかっていくにつれて、辺りには暗闇が戻っていく。 俺は遥か彼方に見えるその光がすっかりと見えなくなるまで、空を眺めていた。 やがて、聞こえてきたのはファンファーレのような音。 競馬場で流れてくるようなエネルギッシュな音楽だ。 この静寂に似つかわしくない、雰囲気をぶち壊す……そんな場違いの音だった。 俺はそんなヘンテコな演出に少し驚いて、そして……腹が立った。 やっと強敵を倒して……、その余韻に浸る時間くらい与えてくれてもいのに。 これで、エンディングだろうか。 何だか演出が雑だなって思った時だった。 辺りから急激に霧が出始め、あたりは真っ白に。 そして、何もかも判別不可能なほどに霧が覆っていく。 ポーズボタンを押して時を止めようと思ったが、何故かボタンが見当たらない。 上も下もわからないくらいの白い世界。 もう、モクモクで意味がわからない。 そんな状態がいきなりクリアになっ

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 76話 モルフィンはサービス精神旺盛なのか?
    ot_nail
    ot_nail 2020/08/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 75話 森も草も大地さえも抉ったそれは、気が済んだかのように空へ逸れて登っていく。

    「ちょっと……。何してるの?」 モルフィンが入力欄に集中している俺に声をかけてきた。 俺が黙って上ばかり見ているから、不思議に思ったのかもしれない。 きっと、彼女からは俺のことが見えているのだろうと思う。 「ここに入力欄があったから、心当たりあるコードを打ち込んでたんだ」 「……それって、矢印だらけのボードが出てくる?」 モルフィンの声はどこか心配そうにも聞こえる。 「そうそう。それそれ。たまたま知ってたコードがあったから、今、打ち込んだ」 「……それって、ひょっとしてウエウエ、シタシタ、ヒダリミギ、ヒダリミギ、ビーエー?」 モルフィンも知っているんだ。 前の世界では、とっても有名だったものね。 「そうそう。神様でも知ってるの? すごいな……」 「それ! ダメよ! 自爆コード!!」 モルフィンは思いっきり大声で、俺に怒鳴った。 「じ、自爆?」 俺は慌てて、BSキーで消していく。 「け、消し

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 75話 森も草も大地さえも抉ったそれは、気が済んだかのように空へ逸れて登っていく。
    ot_nail
    ot_nail 2020/07/27
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 74話 これが外れると、後はもうお手上げだ。

    「さあ、次は自分で動いてみて」 モルフィンがそういうと、この青ジャージの身体は俺の身体になった。 フォレストウルフがまた一匹、少し離れたところで澄ました顔をして待っている。 多少胸のでっぱりに違和感はあるが、動き自体は元の身体より断然動きやすい。 この身体の方が俺の貰った身体より、遥かに強そうだ。 まずは、唐竹切り。 銅の剣を振るう一挙手一投足が、自分の斬撃とは全く違うのを感じた。 モルフィンのは斬る。 俺の以前の動きは叩く……あるいは当てるという感じがした。 もう、今の俺にとってフォレストウルフはザコ敵も同然。 何匹ものフォレストウルフと戦い、一通りの切り方を試した。 「うん、うん。よく出来ました。これで剣術の基礎はできたね」 モルフィンの身体を張った指導に心から感謝。 きっと、俺を殺そうとは思っていないのだろう。 そうでなければ、ここまでやってくれる事の説明がつかない。 彼女の熱い体温

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 74話 これが外れると、後はもうお手上げだ。
    ot_nail
    ot_nail 2020/07/20
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 73話 青いジャージ、なびく金髪、鼻腔をくすぐるユリの香り……。

    ホッと一息を付いていると、モンスターが近づいて来るのを感じる。 モルフィンは出ないって言ってたけど、フォレストウルフだったらどうしよう。 嫌な予感がする……段々とモンスターは近づいて来る。 数は一匹のみ。 うん……フォレストウルフらしい。 特殊な能力なおかげで、分かるんだ……。 モルフィンは、何て嘘つきなんだろう。 ノーマルモードじゃ出現しないって言ったのに……。 前回のフォレストウルフを考えると恐怖しかない。 それと同時に、嘘をついたモルフィンに対して怒りを覚える。 死ぬ前に文句を言いたくて、ポーズボタンを押した。 「何? さっき、私を無視したでしょ。腹が立ったから、今ハードモードにしといたわ!」 ポーズを押した途端、すごい機嫌が悪い声が返ってきた。 ああ、さっきのゴブリンの時か。 悪いの……俺? 「ちょっと待ってよ。あんなの倒せない。死ねっての?」 もう、俺を殺そうと思っているんだろう

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 73話 青いジャージ、なびく金髪、鼻腔をくすぐるユリの香り……。
    ot_nail
    ot_nail 2020/07/02
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 72話 ようやく……俺の2メートルくらい先で粒子になって消えた。

    疼く両肩、輝く星空。 冷たい夜風に、疲れた心。 何だか音はもう辞めたい……。 まだ始まったばかりなのに、心はもう折れそう。 敵はケモノ臭いし、弾は避けるし、傷も痛い。 とりあえず、ゆっくり手を持ち上げて目の前のエネルギーボールを身体に収める。 肩の傷跡はそれほど深くないのに、痛くて上手く動かせない。 ジャージが破れ、その穴から染み出ている血液が痛々しい。 出血多量で、死んじゃうかも知れない。 その傷跡を見ていたら、回復魔法を覚えたことを思い出した。 透析室で人工血液を輸血して貰った時に覚えたヒールの魔法。 現実の病弱な身体は、一度でも使うと気絶する恐れがあった。 今なら問題なく使えるんじゃないか。 試しに肩の傷にヒールの魔法をかけてみる。 右手を広げて左肩にかざす。 傷を癒すイメージを魔力に込める。 右手から暖かな光が傷口に当たると、痛みも傷跡も跡形もなく消えていく。 右肩も同様に左手を

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 72話 ようやく……俺の2メートルくらい先で粒子になって消えた。
    ot_nail
    ot_nail 2020/06/29
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 71話 神のエネルギーからつくっていると言っても、構造は人体と変わらないのだろうか

    とりあえず、試しにエネルギーボールに触れてみる。 右手の人差し指で軽く触れると、途端に指先に吸い込まれていく。 親指の先に豆電球のような小さな光が灯る。 6段階だから、指1ずつが光っていくのかも。 最後は手の甲だったり? 1つ取っただけで使うと、スピードアップだったな……。 エネルギーボールの使用を念じてみたら、親指の先で火花がポッとはじけて灯りが消えた。 これで使えたのだとは思った。 試しに周りをクルクルと動いてみると、飛行速度が若干上がっている。 めちゃくちゃ上がるものではないらしい。 けれど、急に速度が上がったので、感覚が少し追いつかない。 これはあまり急激にスピードアップを使うと、乗り物酔いを起こしそうな気もする。 そんなことをやっている内に、ナイトバットの編隊がいくつも近づいて来るのを感じた。 どんなにナイトバットが来ようが、今の俺には敵ではない……。 そう思っていた。 ナイト

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 71話 神のエネルギーからつくっていると言っても、構造は人体と変わらないのだろうか
    ot_nail
    ot_nail 2020/06/24
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 70話  大して強くなれないだろうに、リスクだけは高いとかやめてほしい。

    確かにモルフェウスの与えてくれたこのシステムは、とてもコストが掛かっていそうだ。 それでも、俺の中の評価が覆ることはない。 この契約の成り行きは……モルフェウスの奥さんの気遣いであって、モルフェウスのものではない。 それでも、レベルがものすごく上がってしまえば、1%でも大きいかなあ……。 ダレンさんみたいな、平均ステータス1000になっても現実では10しか上がらない……。 せめてこの加護の強さを感じることができれば、モルフェウスの評価も上がるのに。 それでもモルフィンさんには罪はない……悪い気分にさせても申し訳ないな。 「レベル上げしていくよ。モルフェウスの加護の力のもとに……」 ちょっとだけ、ご機嫌をとった。 「そう? じゃあ~、どうやって経験値あげようかな」 モルフィンさんはちょっと、嬉しそうに腕を組んで考え始めた。 「え? これから決めるの?」 意外にも、まだ決まってなかった。 「だ

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 70話  大して強くなれないだろうに、リスクだけは高いとかやめてほしい。
    ot_nail
    ot_nail 2020/06/18
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 69話 俺の中でのモルフェウスの評価が低過ぎるのを察したのかな

    こうして寝転んでから、どれくらい時間が経ったのだろう。 俺の身体は疲れていないのに、気持ちが落ち込んで仕方がない。 少しだけでも強くはなったのだから、騙されたわけではないのかもしれない。 けれど、俺は期待をし過ぎていた。 モルフェウスの力が物凄いものだと、思い込み過ぎていた。 それが、たった1%の効果しか無いなんて……。 もう、レベル上げへのモチベーションはだだ下がりだ。 眠ってしまおうかとも思った。 けれども、ここにある薄い桃色の空は俺の気持ちを癒してくれる気がして、ぼーっと空を眺める。 草の匂いも、小川のせせらぎも、俺の中の心の穴を懸命に埋めてくれようとしているようだ。 何となくゴロゴロと寝転がってみる。 草の匂いと土の匂い、それとこの世界のピンク色の雰囲気に身体が馴染んでいく感じがする。 大の字になってもう一度、すっかり親しみの沸いたピンク色の空を眺めてみた。 少しだけ、期待からの落

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 69話 俺の中でのモルフェウスの評価が低過ぎるのを察したのかな
    ot_nail
    ot_nail 2020/06/17
  • 病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 68話 何もかもめんどくさくなった俺は地面に寝転んで、この世界のあまりに甘美な雰囲気に身を任せた。

    モルフェウスは俺のやる気まんまんの発言を受けて、快く応じてくれると思った。 「さっそく、強くなりたいんだね……。……でも、今日は色々時間も遅いし、帰っておけば?」 予想外の反応。 今の時間は一体何時だか知らないが、もう現実の自分は寝ているので、いくら遅かろうが関係ない。 「いや、出来る時にやっておきたいので……」 こっちの世界の身体は、病気もないし積極的に強くしたい。 「でも身体のエネルギーが足の先まで安定しきるのに、あと1時間かかるからさ。待ってられる?」 何だか、邪魔にしてる? 「1時間くらい大丈夫です」 早く経験値を手に入れてレベルを上げたいのに、なんでだろう。 「まだその身体を創ってからそんなに経ってないからね。頭からだんだん足先まで安定していくんだ」 裸足で歩いた時に痛かったのはそのせいだろうか。 「当にやっていくの?」 「やってく、やってく」 次に来るのがいつかわからないから

    病気の身体で異世界に行ったら、剣さえ持てなかった。転移を後悔してももう遅い。病院を育てて俺は強くなる。 - 68話 何もかもめんどくさくなった俺は地面に寝転んで、この世界のあまりに甘美な雰囲気に身を任せた。
    ot_nail
    ot_nail 2020/06/16