男には不似合いなブレスレットが、右腕で輝いている。 これを見るたび、昔の思いが鮮烈なまでに甦る。 後悔、怒り、そして――哀しみ。 取り戻したくても、取り戻せるはずもない過去。 いっそすべてを忘れてしまえたら楽なのだろうが、そんなこと許されるはずもない。 自分が許さない。 それは、許容される範疇を遥かに超えていた。 ――俺は、いつかかならず―― 「先生――」 遠くで声がする。かすかに意識の平面に乗るかのように。 「鈴木先生」 はっとして顔を上げると、隣の席の夏目 戒がこちらを不思議そうに見つめていた。 「――あ、ああ、夏目先生ですか」 「すみません、集中なさっていたのに邪魔をしてしまったみたいで」 「いえ、ちょっと考え事をしてただけなんですよ」 鈴木 勝俊が無意識に右の手首を触っていることに、戒は目ざとく気づいた。 「それ、ブレスレットですか? けっこういい水晶使ってますね」 「ええ。昔、あ
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