「あのな」 ベアトリーチェの頭越しに声が聞こえてくる。 マクシムはヴァイクのあまりに一方的な物言いに、なかば呆れたように反論した。 「このばかやろうが。俺だって人間も重い業の鎖に縛られていることくらい――」 だが、その言葉を最後まで言い切ることはなかった。 「え?」 声を上げたのはベアトリーチェだった。その左の肩口から、剣の切っ先が顔を覗かせている。 一番はじめに、その意味するところを悟ったのはヴァイクだった。 「マクシムッ! 貴様……!」 ベアトリーチェが、ゆっくりと俯せに倒れていく。それを急いで受け止めながら、ヴァイクは怒りと憎しみに燃える目を、仇のほうへきっと向けた。 そのときになってようやく現状を正確に把握した。 マクシムの左胸を、鈍色(にびいろ)をした小ぶりの剣が刺し貫いている。その巨体が目の前で、なす術なく頽(くずお)れていく。 その背後に立っていたのは、黒に近い紫色の翼をした