はぁ、とややもすると色っぽい吐息が何度も響く。 ノイシュタット侯の妹姫、アーデは馬上で揺られながらまた嘆息をした。 「そんなに、これからのことが心配ですか」 「そっちのことじゃないの。お兄様よ」 ああ、そういうことか、とユーグは納得した。 「こんな時期にカセルへ行かなくてもいいのに」 「仕方がありません。かの地が今後、重要な地域になるのは間違いないのですから」 「ま、ほったらかしにしてたら帝国そのものが弱体化しちゃうし」 「そういうことです」 「でも、今じゃなくたっていいでしょう? ノイシュタットだって大変なのに」 「アーデ様のお気持ちはわかりますが、危ういんですよ、カセルも」 「ルイーゼ卿のような優秀な人材がいるのに?」 「もし世の中が、アーデ様のような人ばかりだったらいいんですけどね」 「どういう意味?」 姫が半目になった。 「揶揄したのではありません。もしアーデ様のように過去にとらわ