方々から立ち上る不穏な土煙はあたかも狼煙のようでもあり、それが見えるだけでいやおうもなくこころが騒ぐ。 ――状況は変わらず、か。 ノイシュタットにとっての戦況は思わしくない。ただの暴徒と思っていた相手はその大半が正規兵で、異様に士気が高いという現実が前線の兵士たちを戸惑わせている。 無理もない。他国との戦ともなればそれなりの〝覚悟〟が必要だというのに、その準備がまるでできなかった。いや、させてやれなかった。 万全を期したつもりが、この体たらく。戦というものの恐ろしさを思い知ると同時に、自分への失望が込み上げてくる。 「己という指揮官はこの程度か――」 「何をおっしゃいます、フェリクス閣下!」 元気のいい声が横から飛んだ。 青鹿毛(あおかげ)の馬上にいるのは、近衛騎士でありながらいつもは最前線にいるゲルトであった。いくら現在ではその位が名誉職化しているとはいえ、ノイシュタット侯軍のなかにおい