ほとんど人の気配を感じない石製の通路は、ただひたすらに冷たく、無機的な印象をさらに強め、来るものを確実に拒む。 ダスク共和国の首都にあるディラン宮は、いつにも増して深い静寂に包まれていた。ほとんどの人間が外に出払い、ここには警備上、必要最小限の兵しかいない。 すべては、戦時下ゆえであった。 そんな都のブランで、国の最高権力たる執政官のひとり、アランは、来る者もないというのに謁見の間である〝鷹の間〟でたたずんでいた。 元から気難しげな顔が、今はさらにその深刻の度合いを増している。念のため近衛兵がついてはいるが、誰も声をかけることはできなかった。 とげとげしい空気を発する男の元へ、不意に近づいてくる気配があった。 「どうした、アラン」 呼びかけられて初めて気づいて顔を上げると、そこにはもうひとりの執政官がいた。 「――ミレーユか」 いつもより楽な格好をした彼女は、特徴的なきつめの化粧も今日は薄
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