(2010年10月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 日本経済が収縮していくのを諦めて傍観するようになる前、日銀はなかなかの先駆者だった。米連邦準備理事会(FRB)と英イングランド銀行が信用緩和政策と量的緩和政策を始める何年も前に、紙幣増刷による資産買い取りを実験していた。今週、日銀はわずかながら昔の魔力を再発見した。 日銀の政策委員会は9月5日、資産買い取りのための5兆円(600億ドル)規模の基金の「創設を検討する」ことを決め、量的緩和へ回帰するシグナルを発した。購入する資産の7割は国債などの政府債務で、残りがコマーシャルペーパー(CP)や社債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などだ。委員会は同時に政策金利を引き下げた。 対策の規模は控えめだが、市場の期待には大きな影響 中央銀行の積極行動主義という意味では、今回の対策の規模は控えめだ。翌日物金利が従来の0.1%では
1994年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部にて、流通・電機・IT業界、国際金融、財政政策、マクロ経済を担当。2006年より現職。 デフレ日本 長期低迷の検証 20年もの長きにわたって低迷を続ける日本経済を、気鋭の経済学者とともに検証する。 バックナンバー一覧 20年もの長きにわたって低迷を続ける日本経済を、気鋭の経済学者とともに検証する。第1回は、池尾和人・慶應義塾大学教授に聞く。 ──日本経済の現状をどうとらえているか。 池尾和人(Kazuhito Ikeo) 1953年生まれ。京都大学経済学部、一橋大学大学院修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。経済学博士。岡山大学助手、京都大学助教授などを経て95年より現職。専門は金融論、日本経済。95年全国銀行学術研究振興財団賞受賞。主な著書に『現代の金融入門[新版]』(筑摩書房、2010年刊)。 Photo by Masato Ka
(2010年9月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 日本経済はいつまで経っても、財政出動による景気刺激策が必要なようである。危機が誘発した政府の大型公共支出の効果が薄れ始める中で、政策当局は追加刺激策を講じるために最大550億ドル規模の補正予算案を提出しようとしている。 こうした行動の必要性は明白だ。何しろ、日本は危機の最中に主要7カ国(G7)の中で最も深刻な景気後退を経験し、景気の山から谷にかけてGDP(国内総生産)が8.6%も縮小した。ほかの先進国が何とか前進しつつあるのに対して、日本は同じ場所に立ちすくんでいるように見える。2010年第1四半期に年率換算で5%となったGDP成長率は、第2四半期には1.5%に低下した。 追加策は必要だが、内容は不十分 追加的な財政刺激策は間違いなく良い考えであり、日本政府が最近やったように、円安誘導のために為替市場に介入して輸出業者を支援すること
(2010年9月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) あれは一種のウイニングランだったのかもしれない。日本の与党民主党の代表選挙が菅直人首相の勝利という形で決着した翌日、日本政府は円安誘導のために為替市場に介入した。この動きは、日本政府の政策の麻痺状態からの歓迎すべき脱却だが、その重要性は経済的というより政治的なものだ。 日銀に円売りを指示することは、菅氏に敗れた挑戦者で、代表選で介入を強く訴えていた小沢一郎氏の支持者を喜ばせたことだろう。民主党にとってもっと重要なのは、介入が、1年前の選挙での圧勝以来低下してきた党の支持率を高める可能性があることだ。 円の対ドル相場が着実に上昇してきたことで(9月14日には15年ぶりの高値水準である1ドル=83円台を突破した)、輸出業者は動揺していた。 介入効果は長続きしない 企業のオーナーたちは、円相場を押し下げること(16日は1日で3%下落した)
民主党代表選も、残り1週間になった。メディアもさすがにいつまでも政局話ばかりではということなのだろう、政策議論もでてきた。 しかし、いまもっとも大切な景気対策についてみれば、残念ながらほとんど両者には差がない。 菅直人総理の政策は、8月30日に発表されたものだ(同日の筆者のコラム参照)。小沢一郎氏は、「22年度予算で計上された経済危機対応・地域活性化予備費(1兆円)と国庫債務負担行為限度額(1兆円)の計2兆円を全額執行し、住宅ローン供給の円滑化、エコポイントの延長、学校・病院の耐震化の景気対策をする」としている。 両者の基本的な違いは、国庫債務負担行為(1兆円)について、菅氏は使わず、小沢氏は使うという点だ。国庫負担行為は、後年度に歳出計上するものであり、実質的には国債発行増と同じである。 一方、為替介入について、菅氏は「引き続き為替の動向について注視していくとともに、必要な時には断固たる
筆者は、ここ2回のこのコラムで円高の警報を発してきた。 8月9日のコラムでは、同月10日に行われる日米金融政策で、日銀は無策だがFRB(米国連邦準備理事会)は事実上の金融緩和となって円高が加速されることを、8月23日のコラムでは、政治状況から31日ごろに政府・日銀の経済対策が出されることを指摘した。 いずれもそのとおりになった。日本の株価は円高パンチで米国より幾分下げ幅が大きいが、何もインサイダー情報があったわけでない。 9月1日告示、14日投票という民主党代表選という政治スケジュールから、政府・日銀の官僚機構が動かないことがわかれば合理的に推測できることだ。誰が政権のトップになるのかわからない段階で、官僚は保身に走り、一方に肩入れしないのである。 日銀はもともとデフレ指向が強いうえに、民主党代表戦への対応で、10日に政治的に動かなかった公算が高い。その結果、30日か31日(外電は30日と
マスコミ各社の報道によると、日銀は追加金融緩和の検討に入っている。円高・株安が日本経済の緩やかな景気回復のシナリオを崩しかねないとして、下振れリスク重視の姿勢へと、事実上切り替えを図っているようである。米ワイオミング州ジャクソンホールでの米欧中央銀行トップとの情報交換を終えて白川方明日銀総裁が帰国する予定の8月30日以降、為替相場の動向次第ではあるものの、市場で緊張感が高まる場面が出てくることだろう。 ここでは、市場の内外で浮上している様々な追加緩和手段について、それぞれが実行された場合に予想されるメリットとデメリットを、筆者なりに整理してみた。
デフレが続く中で財源が枯渇し、有効な景気対策を打てない苛立ちからか、政治家の日本銀行への風当たりが強まっている。 民主党の有志議員が「デフレ脱却議員連盟」を結成し、日銀法の改正やインフレ目標の設定などを民主党執行部に提言した。みんなの党も、日銀法の改正を含む「デフレ脱却法案」を秋の臨時国会に出す予定だ。 政治家がデフレに関心を持つのは結構なことだが、デフレを脱却する政策として、日銀の独立性を弱めて言うことを聞かせようという話ばかり出てくるのは、どういうわけだろうか。 インフレ目標だけではインフレは起こせない デフレ脱却議連の副会長である民主党の藤末健三氏は、「今、最優先すべき金融政策はインフレ目標の設定だ」としてこう書いている(東洋経済オンラインの記事より)。 <一言で(中央銀行の)「独立性」といっても、「目標の独立性」と「手段の独立性」の2種類があり、尊重されるべきは後者の方である。5月
ピンボケした「デフレ政策論争」は民主党代表選で決着をつければどうか 菅・白川会談「見送り」が中央銀行の独立維持のため? 最近の話題といえば、民主党代表選と円高だ。 お盆休みも終わり、8月23日にも、菅直人総理と白川方明日銀総裁が行われるとの報道があった。これは公式の予定でもないが、市場はこうした情報に振り回された。その後、日銀の独立性を考慮して、総理と日銀総裁との会談は先送りされ、直接会う代わりに電話会談になるかもしれないという報道もあった。 こうした報道の真偽は部外者にはわからないが、明らかなことが一つある。これらの情報のソースは、金融政策について無知なことだ。報道にある「日銀の独立性」の理解である。 ここで、中央銀行の独立性の復習をしておこう。 今年5月にバーナンキFRB(連邦準備理事会)議長が来日し日銀で講演した。その中で「『目標の独立性』(goal independence)と『手
円高対策で注目すべきは(1/3) 為替レートが円高に動いている。円ドルレートが80円台半ばまで動くことで、産業界も政府関係者も危機感を持ち始めたようだ。1995年に日本が経験した過去最高の円高の水準に近づいてきたからだ。 冷静になって考えてみれば、円ドルレートでみて、それほど極端な円高ではない。1995年から現在までに、日本の消費者物価はほとんど変化していないが、米国のそれは約40%上昇している。実質レートで見れば、円ドルレートは過去のピークに比べてまだ40%以上円安ということになる。かりに物価も考慮に入れた実質為替レートで、1995年に経験した過去最高の円高を経験するとすれば、それは今の物価水準であると、1ドル=約57円という計算となる。 理論は理論、現実は現実である。産業界や市場関係者は名目レートを見て行動している。行動経済学(心理経済学)によれば、人々は過去に経験した水準を前提に
8月13日、ロイター短観とQUICK短観の8月調査が発表された。ドル/円相場が85円台に入ったのは7月30日の海外市場からなので、これらの調査の実施期間は、円高の進行時期と重なり合う。円高の進行は、企業マインドにどのような影響を及ぼしているのだろうか。 ロイター短観の8月調査(調査期間:7月26日~8月10日、241社が回答)で、業況判断DI(400社ベース)は、製造業が+22(前月比+10ポイント)で、2007年11月以来の高水準。非製造業は▲10(前月比+2ポイント)になった。足元の企業マインドは、円高にもかかわらず、製造業を中心に改善を続けていることが分かる。新興国需要の取り込みもあって、4-6月期の決算が好調だったことが主因だろう。 ただし、製造業の11月見通しDIは+15で、8月実績に比べて7ポイントの低下になった。見通しDIが低下するのは2007年11月調査以来のことである。こ
円高がおさまらない。2010年8月11日の外国為替市場で円相場は一時、1ドル=84円72銭まで上昇し、1995年7月以来15年1か月ぶりの高値を付けた。この水準になると、輸出企業の収益が悪化し、日本経済にとって好ましくない。日本はなんだかんだといっても、一部のエクセレントカンパニーは輸出で食っているので、為替レート水準は経済全体に大きな影響がでる。 今回の円高は、政府・日銀の無策の結果である。円相場で円高が進んでいることを受け、野田佳彦財務相は口先で注視するというが、本当に視ているだけで、何の行動も伴わない。直嶋正行経済産業相は、輸出関連の約200社を対象として緊急ヒアリング調査を行うだけ。内閣府では、大塚耕平副大臣が「まず総合的な日銀に対する評価だが、日銀が現在行っている政策は、10年前、15年前など当時の金融政策の常識から考えれば、かなり踏み込んでおり、評価できる」なんて、のんきなこと
7月30日に臨時国会が始まったが、期間はわずかに8月6日まで。みんなの党と公明党から提出された国会議員歳費日割法案もまともに処理されず、新たに当選した参院議員に7月分歳費の一部を自主返納させる暫定的な法整備にとどめる方針だ。 菅政権で初めての予算委員会も衆参わずか2日。ヘタにボロ出せば、9月の代表選への道もなくなるので、はやくも「逃げ菅」という作戦なのだろう。国会議員には夏休み返上で働いてほしいが、どうもそういかないらしい。 何より心配なのは経済政策だ。そこで、10年前を振り返ってみたい。日本銀行は10年経つと政策決定会合の議事0録を公開している。ちょうど7月30日、2000年1月~6月の分が公開されたのである。 なぜ今10年前を振り返るのか。日本ではここ10年以上デフレが続いて、日銀はデフレターゲットをしているのではないかとさえみえるからである。 米国型コア指数の消費者物価(除く食品・エ
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