第10回 なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか? 1 単複を区別しないのは2人称代名詞だけ 英語は日本語と比べると,2人称代名詞を選ぶのに気を遣わないでよいので気楽だ,とよく言われます.日本語では,相手や状況によって「あなた」や「きみ」や「おまえ」などから適切なものを選んで使う必要があり,挙句の果てに,いずれもしっくり来ないので使わないで済ませるということも日常茶飯です.それに引き替え,英語では you という魔法のような1語で済んでしまいます.相手や状況によらず不変であり,原則として省略されないという点で,まさに日本語の対極に位置しているといっても過言ではありません. 英語の you はこのように気を遣わずに利用できて便利ではありますが,よく考えてみると,これは英語らしからぬ側面のようにも見えます.というのも,英語は何かにつけて数(単数と複数)の区別にうるさい言語