農村部での豊富な余剰労働力の工業部門への移転は、これまで中国の高度成長を支えてきた。しかし、近年、沿海地域における出稼ぎ労働者の供給がタイトになってきたことに象徴されるように、中国は、急速に労働力過剰から不足の段階に向かっている。これを反映して、1998年まで実質賃金の伸びは一貫してGDP成長率を大幅に下回っていたが、その後、両者の関係が逆転するようになった(図1)。完全雇用の達成は、中国の更なる成長を制約する要因になりかねないと懸念されるが、その一方で、所得格差の是正や産業高度化に寄与するだろう。 中国の農村部には、1.5億人ほどの余剰労働力が存在すると言われてきた。政府がまとめた「国家人口発展戦略研究報告」(2007年1月に発表)においても、同じ数字が援用されている。このような「労働力過剰説」に対して、中国社会科学院人口・労働研究所の蔡昉所長は、一連の研究で異論を唱え、過剰から不足への