医療者であれば脳神経疾患罹患後に筋力が低下することに異議を唱える人は少ないように思います.これは長期臥床による廃用萎縮(筋肉を動かさないことによる萎縮)と説明されてきました.ワシントン大学からScience Immunol誌に報告された論文を読むと,意外なことに単なる廃用ではなく,「脳内で起きた炎症シグナルが筋肉に伝わってミトコンドリア障害をきたす」という驚くべきことが生じていることが分かります. 結論が図にまとまっているのでこれを用いて解説したいと思います.論文によると感染症(細菌感染,COVID-19)や神経変性疾患(アルツハイマー病)のあとに筋障害が生じる経路は2つあり,①神経変性を介する筋障害経路,②炎症シグナルを介する筋障害経路になります. ①神経変性を介した筋障害経路(図1左) 病原体の脳内侵入→Toll受容体とPGRP(ペプチドグリカン)受容体の活性化→転写因子Dorsal