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ブックマーク / tsuccy1209.hatenablog.com (8)

  • スティーヴ・エリクソン「アムニジアスコープ」 翻訳:柴田元幸 - 本棚のすき間でつかまえて

    タイトル「アムニジアスコープ」、アムニジアとは記憶喪失とか健忘を意味し、スコープは視野とか範囲とか……、あと他には銃器の照準器という意味にも使われる。どの組み合わせが著者の意図したニュアンスに近いのかは解らないけれども、僕個人としては「過ぎ去ってしまい真偽が定かではなくなっていく曖昧な記憶としてでしか過去を留めておくことの出来ない人間が、いざ自らを振り返り、その人生を覗きこもうとしたときに自分の歩んだ道のりの不確かさに愕然とする話」なのだと思った。時が経つにつれて何かが抜け落ちて記憶が曖昧となっていく様を「アムニジア」と表現し、それを今現在にて思い返して(覗きこんで)いる視線を「スコープ」と表現しているのかなぁと思った……。人間はもともとの設定からして記憶を喪失しながら生きているのかもしれない。むしろ雑多な世の中ではそうとしか生きられない存在なのかもしれないと思わされた。 過去、現在、未来

    スティーヴ・エリクソン「アムニジアスコープ」 翻訳:柴田元幸 - 本棚のすき間でつかまえて
  • ボルミル・フラバル「あまりにも騒がしい孤独」 翻訳:石川達夫 - 本棚のすき間でつかまえて

    ボフミル・フラバル(1914-1997)はチェコの作家。若かりし頃は共産党の体制下(スターリン主義体制)で自由な出版が許されていなかった。1960年代に入りチェコスロバキアには自由化の兆しが見え始めるが1968年にソビエト軍の侵攻「プラハの春」によって再び出版物には規制がかけられた。フラバルの作品は検閲により満足な出版が出来ぬまま、地下出版や外国への亡命出版社によって刊行がされていたらしい。チェコの作家といえばミラン・クンデラが有名だけれども、クンデラはフランスに亡命しフランス語で作品を書いている。対してチェコで書き続けたフラバルは国内ではクンデラをしのぐ人気があり、世界的にも支持される作家のようです。 ……と受け売りで書きましたが、僕はフラバルを読むのはこれが初めてです。 この話は毎日大量に運び込まれてくる古紙をプレスする、ハニチャという初老の男の心境が語られるというもの。ハニチャは処理

    ボルミル・フラバル「あまりにも騒がしい孤独」 翻訳:石川達夫 - 本棚のすき間でつかまえて
  • ソール・ベロー「犠牲者」 翻訳:大橋吉之輔 - 本棚のすき間でつかまえて

    ユダヤ人であるレヴィンサールは、ユダヤ人であるがゆえに世間から偏見を持たれていた。ジュー(ユダヤ人=ジューイッシュの略)と呼ばれ、怒りっぽい、傷つけられると復讐する、金にうるさい、と世間から思われていた。時々「ジューのくせに」と理由もなく揶揄されることがあり、ユダヤ人であるがために何かとおかしな目で見られることがあるとレヴィンサールは感じていた。 業界紙の編集として活躍するレヴィンサール。彼は下積みを重ね、これまでに実績を上げてきたこともあり、会社からはいなくてはならない存在として認められている。今現在籍をおいている会社は規模からいって望み通りというわけではない――、しかしその昔、職探しに苦労した記憶があるレヴィンサール――、彼は野心や向上心を持ちながらも、現状にはそれなりの満足を覚えていた。 ある時にレヴィンサールに浮浪者風の男が語りかけてきた。それは昔の知人のオールビーという男だった。

    ソール・ベロー「犠牲者」 翻訳:大橋吉之輔 - 本棚のすき間でつかまえて
    q52464
    q52464 2017/05/10
    これは面白そう。探して読んでみなければ。
  • アリス・ウォーカー「カラーパープル」 翻訳:柳沢由美子 - 本棚のすき間でつかまえて

    話題になることには、どんな意味があるのか? 黒人女性初のピュリッツァー受賞作品――、そのニュースがアメリカを駆け回った時に著者であるウォーカーは言っている。「黒人であること、女性であることに話題性が生まれる意味は何なのか?」と。 というのも今作で描いているのは1900年代前半の黒人女性について。この時期、差別のヒエラルキーでは相当下に位置していた黒人女性を描いた話であり、内容はもちろん差別を問うものになっている。栄誉ある賞を受賞したのが黒人女性――、そこに話題性が生まれるということは「あいかわらず……」とウォーカーは言いたかったのでしょう。今作が描かれたのは1983年なので世間の空気は現在とは違います。 というか……、周りに日人しかいない環境で暮らしている僕にとっては黒人に対する差別がどういうもので、どう変化を遂げていったのかの詳しいところは解りません(知っているのは映画の内容程度)

    アリス・ウォーカー「カラーパープル」 翻訳:柳沢由美子 - 本棚のすき間でつかまえて
  • J.M.クッツェー「夷荻を待ちながら」 翻訳:土岐恒二 - 本棚のすき間でつかまえて

    冒頭のあらすじ 舞台は帝国領の辺境にある、とある城壁都市。主人公はその地で長らく民政官を務めていた初老の「私」。郊外には夷狄と呼ばれる土着の民族――、遊牧民、漁を生業にする種族、なにやら不明な蛮族などなどがいる。とにかく帝国の境目である辺境の地とは、中心都市と違って異文化との接触がすぐそばにあるところ。 ある時に中央からひとりの軍人がやってくる。ジョル大佐と言われるその人は「夷狄が帝国に攻め入ろうとしているという情報を得た」という理由から、近辺に出没する夷狄を捕まえはじめる。そして大佐は連行してれきた夷狄に対して取り調べという名のもとの「拷問」をしはじめる。人権などは無視をして、とにかく痛めつけることで夷狄から何かを聞き出そうとこころみる。 これに反発するのが主人公の「私」。それもそのはずで「私」は民政官としてこの地の安定して治めるために、これまでに夷狄との間に良好な関係を築いていた――、

    J.M.クッツェー「夷荻を待ちながら」 翻訳:土岐恒二 - 本棚のすき間でつかまえて
  • コ―マック・マッカーシー「チャイルド・オブ・ゴッド」 翻訳:黒原敏行 - 本棚のすき間でつかまえて

    文学的に美しく描かれる殺人 今作は1960年代にアメリカで実際に起きた連続殺人事件をモチーフにした作品です。この手の事実を元にした小説はいろいろあると思いますが、僕が読んだ作品のなかでパッと思いだせるのはトゥルーマン・カポーティの「冷血」。マイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて」あたり。ちなみにこの2作は徹底した取材によって作りあげられたノンフィクション・ノベル(ちなみに「心臓を貫かれて」に関しては殺人者である兄を実の弟が描くというもの)――、なのでドキュメントタッチであり、真実に則して描こうとする意図を強く感じる作品だったけれども、今作「チャイルド・オブ・ゴッド」は、どちらかというと著者の創作の面が強いと思う。というのも描写がとても文学的、かつ美しい。非道な殺人者を描くのだからこそ、人間の根底にある衝動を描こうとする――、おぞましい殺人を「成せる」ことの意味は人間を創造した者の意志であるこ

    コ―マック・マッカーシー「チャイルド・オブ・ゴッド」 翻訳:黒原敏行 - 本棚のすき間でつかまえて
  • オラシオ・カステジャーノス・モヤ「無分別」 翻訳:細野豊 - 本棚のすき間でつかまえて

    真実という重み…… 翻訳者によるあとがきを読むと、この作品の持つ重みが変わってくる。この作品の内容はとある男が千百枚にも及ぶ虐殺の記録原稿を整理編集するというもの。その虐殺というのはグアテマラで36年間という長さに及ぶ内戦の中でマヤ族という民族に行われた虐殺。軍がひとつの民族を根絶やしにしようとした事実。記録によると626の村が破壊され、死者・行方不明者は20万人以上。避難民150万人。国外避難民15万人。総人口の1000万人のうち20%が被害者となった――、という事実を元にした話なんです。終結が1996年だから、ついこの間のこと……、さらに辛い事実として虐殺の実行犯たちは今なお権力の座に居座り裕福な生活を享受しているのだとか……。 反転して見えてくるものがある ちなみに作中にはそれらの描写(事実の詳細の描写)はありません。描かれていたのは千百枚におよぶ虐殺の記録があるということ。主人公が

    オラシオ・カステジャーノス・モヤ「無分別」 翻訳:細野豊 - 本棚のすき間でつかまえて
  • オルハン・パムク「わたしの名は赤」 翻訳:宮下遼 - 本棚のすき間でつかまえて

    わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫) 作者: オルハンパムク,Orhan Pamuk,宮下遼 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2012/01/25 メディア: 新書 購入: 3人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る 異国情緒あるれる文学 著者、オルハン・パムクはトルコ人作家です。2006年にノーベル賞を受賞しています(トルコ人初)。今作はフランスで最優秀海外文学賞、その他アイルランド、イタリアで文学賞を受賞しているようです。 今作の舞台となるのは16世紀末のイスタンブール。皇帝の命令により秘密裏に細密画が描かれることとなった。しかしその画に関わった一人の画家が殺されてしまう。どうやら原因はその細密画(命令内容)にあるらしい。いったい何が原因なのか? ひとつの絵画を通して当時のイスラム社会の風土、そしてそこに生きた人々が感じたであろう苦悩が

    オルハン・パムク「わたしの名は赤」 翻訳:宮下遼 - 本棚のすき間でつかまえて
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