本著において、重要と思われるのは二つある。一つは、飛鳥時代終盤、奈良時代初期の大宝律令(三蔵法師の弟子の道昭の死とほぼ同じ時)のころの、音楽の輸入と明治期の音楽輸入の比較。 もう一つは、音楽史のリズム論についての部分だ。 先に音楽史のリズム論について述べれば、あるときには、音楽は、時間間隔に関心が向けられている時代には単旋律音楽または和声音楽が栄え、したがって感情に訴えかける音楽が優勢になり、反対に、空間感覚に注意が払われる時代には対位法音楽が主流を占めるために、理性に訴える音楽が優位に立つという。前者では主観主義が、後者では客観主義が支配的である、とも説明されている。 空間感=ポリフォニー=自由リズム=客観的=悟性 と 時間感=ホモフォニー=規則的リズム=主観的=感情 の間をいったりきたりする。 610年のころは、グレゴリアン・チャントで、時間感のほう。910年のころは、オルガヌムで空間