年末に向け予算編成や税制改正などの政策議論が盛り上がってきたが、政府や与党が検討している政策は、狙った効果がほんとうにあるのだろうか。海外ではノーベル賞級ともされる、政策評価のための経済学が続々と花開き、実際の政策に大きな影響を及ぼしている。でも日本は経済学の知見に基づく政策立案はほとんど導入されていない。大丈夫だろうか。ほんとうに因果関係ある政策と効果の間に因果関係はあるのか――。まずはこ
商工中金の不正問題は、多数の職員の処分、経営陣の引責辞任にまで発展し、組織の存続まで危ぶまれる事態となっている。まさに袋叩きの状態だが、中小企業経営者たちの中には、複雑な思いを持っている者も少なくない。 不正は批判され、糾弾されて当然であるが、民業圧迫や「中小企業支援組織としての役割の終焉」と言った批判に対して、「中小企業支援施策そのものの見直しや低下に繋がらないか」と懸念する中小企業経営者や協同組合関係者もいる。特に地方では、商工中金による協同組合などへの支援や中小企業への融資などは、地域経済の中で大きな存在であった。 ・三つの問題 商工中金の今回の一連の問題は、大きく三つに整理できるのではないか。 まず、一つめは不正融資を組織ぐるみで行うという金融機関としての規範を逸脱していたこと。 二つめには、政策などにも影響を及ぼす景況調査を偽装していたこと。 そして、三つめには、商工中金の民営化
日本経済に関する情報を最も豊富に持ち、最も優秀な分析スタッフを擁する内閣府が、7月18日に「中長期の経済・財政に関する試算」(以下、「試算」と略)を、経済財政諮問会議(議長は内閣総理大臣)に提出した。 2025年度までの名目GDPなどを予測したこの試算、輝くばかりの数字に満ちており、そのひとつひとつに疑いを持たざるを得ない。 万一この「試算」通りに推移したとして、その後に待つのは暗い未来である。まるで「日本はこれから、バラ色の余命8年を過ごす」と宣言しているように見えるのだ。 なんでこんな数字が並ぶんだ 「試算」は、日本経済の将来を「経済再生ケース」と「ベースラインケース」との2通りのシナリオで描く。 「経済再生ケース」は、「デフレ脱却・経済再生に向けた経済財政政策の効果が着実に発現することで、日本経済がデフレ前のパフォーマンスを取り戻す」シナリオである。「消費者物価上昇率(消費税率引上げ
要約: 水野和夫氏の著書は左派陣営、とくに脱成長論者たちに広く読まれている。彼の議論は、資本蓄積が進む一方でエネルギー価格が高騰したことから、利子率=利潤率が低下し、「資本主義の終焉」が迫っているとするものである。「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」は定常状態への移行を迫っており、「成長教」に囚われた景気回復策である金融緩和はバブルをもたらすだけで無効であり、また財政出動も効果がない。求められるのは財政均衡であり、消費税増税を含む増税も必要である、とする。つまり、景気回復も経済成長も不可能だというものである。水野氏の議論は総じて論理の飛躍がみられるが、用いている主要な概念、すなわち「利子率=利潤率」、「交易条件」、「セイ法則」、「マネタリズム」をめぐって専門家らしからぬ誤解が見られるし、成長や脱成長を論じながら、名目GDPと実質GDPの区別さえも明確にしていない。また、ヘタなアベノミクス批
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無茶苦茶ご無沙汰しています。 個人的に色々と忙しいことと、アベノミクスへの期待が失望に変わっていったことからブログの更新を怠っておりました。 さて、久々にブログを更新しようと思ったのは、アベノミクスの現状を端的に示す2枚のグラフをお見せしたかったからです。 言うまでもなく、アベノミクスとは(1)大胆な金融政策 (金融緩和)、(2)機動的な財政政策 (財政出動)、(3)民間投資を喚起する成長戦略 の3本の矢であったはずです。 大胆な金融政策については、GDP比でみたとき、世界金融史上にも例をみないほどのマネタリーベース拡大などがいまも続いています。 また成長戦略についても、有効性はともかくとして、経済特区や働き方改革などなど各種の施策が矢継ぎ早に打ち出されています。 しかし、財政政策についてはどうでしょうか。 図1のグラフは、財務省ウェブサイトに掲げられた一般会計の歳出状況のグラフを分かりや
ドナルド・トランプ大統領が就任演説で「アメリカ第一」のために保護主義に転換することを宣言しました。 January 20th 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again. From this day forward, it’s going to be only America First. America First. *1 Protection will lead to great prosperity and strength. エマニュエル・トッドの7年前の予言が的中したようです。 toyokeizai.net かつて、旧ソ連の崩壊を予言したところ、実際に崩壊しました。アメリカ帝国主義も予言どおり崩壊するでしょう。今回は条件付きですが、最新著作の中では「もし
日本銀行政策委員会の審議委員にバリバリのリフレ派が任命されるということなので、改めて「デフレの正体」について検証します。 長年デフレデフレと騒がれてきたので、1990年代後半から近年までのほとんどの期間、物価下落が続いていると錯覚している人も多いようですが、実際は1998-2003年にかけて財価格が約6%下落しただけで、それ以降は輸入価格と消費税率の影響を除くと財・サービスともに横ばいを続けています。 1998-2003年に起こったのは企業部門の大規模なdeleveragingです。1997年度までは恒常的資金不足主体だった企業が、金融危機を契機に、1998年度以降は資金余剰に転じています。 有形固定資産も減少、 賃金も大幅に低下し、 男の雇用も減少しています。「男性不況」の始まりです。 これらは、雇用・設備・債務の「3つの過剰」を解消するための大規模なリストラクチャリング(delever
松尾匡のページ 17年4月3日 安倍政治に反対が多いのに内閣支持率が高いのはなぜか まる三ヶ月更新を空けました。いつものことかもしれませんが、筆舌に尽くしがたい忙しさでしたので。 原稿やら提出書類やらの、締め切りすぎた督促が入って、びっくり大慌てで必死に書いて、やっと出してホッとした途端、「あれどうなってますか」と締め切りすぎた督促がくる。こんなことを、笑ってしまうぐらい何回も繰り返していました。まあ、学会の報告やら座長やらシンポジストやらを引き受けたら、その時だけの仕事ではなくて、事前には報告論文を出さなければならないし、終わったら報告文やら論文やらを出さなければならないし、引き受けた時には計算に入れてなかったことがスケジュールに割り込んでくるので、いくつも重なってワヤクチャになるんだな。 個人ホームページなんか更新してたら、あちこちから「オレの所の仕事を後回しにして何やってんだ」と思わ
2月は消費が順調に伸び、前期12月のつまづきもあって、1-3月期の消費は年率2%を超えることになりそうだ。3月の結果が出る頃にば、「雇用逼迫でも、弱い消費」という認識も払拭されるのではないか。安倍政権はスキャンダルに見舞われているが、景気は明るさを増している。その大きな功績は、この4月からの消費増税の見送りだろう。3年かかって、消費は駆け込み前水準の回復まできた。国民生活の向上は、ようやくスタートラインにつく。 ……… 2月の商業動態の小売業は前月比+0.2となり、財の物価上昇は前月比-0.1であったから、日銀・消費活動指数+は、若干のプラスが見込まれる。1,2月平均は、12月が低かったこともあって、前期比+0.6程になろう。このまま3月も推移すれば、その他の需要項目も順調であることから、1-3月期のGDPは高まりそうである。本コラムは、前期から上ブレを唱えてきたが、一期遅れで実現される運
「財布に入っている1万円札が日本銀行の借用証書であり、お札の持ち主が日銀に1万円を貸している」と考えている人はほとんどいないのかもしれない。しかし「実はそうなのである」ということをここであらためて考えたい。 最初から注意を促しておきたいのであるが、1万円札は「日銀がいつまでも返済する必要のない借金」などではなくて、「日銀がいつでも返済することを期待されている借金」なのである。紙幣が「返済される」からこそ日々無数の経済取引が紙幣を介して滞りなく取り結ばれている。当たり前であるが、この大切なことを一部の人は忘れているようである。 江戸時代のコメ取引でたとえると? まずは日銀のような中央銀行がまだ存在せず紙幣が発行されていなかった時代のことを考えてみよう。たとえば商人が農家から大量のコメを買うとする。コメ商人はコメ農家に対して支払期日と支払金額を定めた手形を振り出す。通常、手形の額面金額はコメの
3月14日の経済財政諮問会議に招聘されたスティグリッツが日本経済再生について提言しました。 教授からは資料に従いまして「世界的に成長率が低下し、その寄与は上位層に偏っている」「教育、健康医療等のサービス産業を中心とした経済に再構築する必要がある」「市場システムだけでは再構築できないので、教育やイノベーションの促進について政府が関与する必要がある」「成長の成果をより平等に分かち合うためには、賃上げや所得分配の是正や社会保険の提供が必要」「日本の産業政策はうまく働いており、カムバックが必要」「日本で最も重要なのは、三本目の矢やイノベーションでの政府のリーダーシップである」など御説明がありました。*1 日本の事情に関する理解不足な点もいくつか見受けられますが、ここでは特に重要なサービス業への公的関与と賃上げについて取り上げます。 スティグリッツの提出資料の4ページの一部と Objective i
日本経済の長期停滞(名目GDPの成長停止)に関する古典的な誤解です。 president.jp いいか、日本経済が長期停滞している理由、それは、日本人が勤勉で倹約家だからじゃ。 みなが倹約に務めると、作ったモノが売れ残るから、企業は業績が悪くなって社員をリストラせにゃならん。失業者は金がないからモノが買えないから、さらにモノが売れ残る…… みんなが貯金を使うようになれば、消費が拡大して、企業の業績があがり、給料もあがる。 もっともらしい説明で、いわゆるリフレ政策もこのような認識に基づいていますが、現実とは合致していません。*1 jp.reuters.com 今月1日に発表された財務省の法人企業統計によると、昨年10─12月期の経常利益は過去最高。利益剰余金の年末残高も375兆円と過去最高水準を更新した。 企業は人手不足にもかかわらず、利益を人件費に回すことはなく、16年末の労働分配率は43
日銀の金融緩和に限界論がささやかれ、財政支出で物価上昇率2%を目指そうという新理論がわき起こっている。壮大な量的緩和を提唱したリフレ派が「財政拡張派」にくら替えする動きもある。いったいどんな考え方なのか。ノーベル経済学賞を受賞し「物価水準の財政理論(FTPL)」を唱える米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授に聞いた。インフレで債務軽減 宣言を――日銀が「量的質的金融緩和」を始めてまもな
<ブレグジット決定後のイギリス経済は、大方のエコノミストの予想に反して好景気が続いている。今年にふさわしい言葉は、エコノミストは信用できないという「ポスト専門家」なのでは>(写真:昨年12月、ロンドン中心部で買い物を楽しむ人たち) 昨年11月、オックスフォード辞典は「post-truth(ポスト真実)」という単語を「2016年今年の言葉」に選んだ。辞書の会社だからもちろん、彼らはこの言葉に簡潔な説明を加えた。こんな具合だ。 「客観的な事実よりも、感情や個人の信条に訴えるアピールのほうが世論の形成に影響を与える状況」 これが「今年の言葉」になったのは、国民投票によるイギリスのEU離脱(ブレグジット)の決定(と、その後に続いたドナルド・トランプの米大統領選勝利)のせいだ。つまりイギリスの有権者は、EU加盟国であるのはいいことだという「客観的事実」を拒み、代わりに無知な抗議に一票を投じた、という
これらの記事の続きです。「デフレの正体」について考察します。 totb.hatenablog.com totb.hatenablog.com 2011年3月2日の衆議院財務金融委員会で、リフレ派の山本幸三議員のこの質問に対して、 白川さんの発言でびっくり仰天したのが、二ページ目の一の4というところなんですが、中略の後、「名目賃金の伸縮的な調整はサービス価格の下落という形でデフレの原因ともなった。」 どういうことですか、これは。労働組合の幹部が聞いたらぶったまげるよ。自分たちが賃金引き下げを受け入れたのがデフレの原因だと言っているんだよ。 これはどういうことですか、日銀総裁。 日本銀行の白川方明総裁(当時)はこのように答えています。 日本とアメリカのインフレ率の違いというものを過去十数年間分析してみますと、九割方が財ではなくてサービスでございます。 サービスの値段がなぜ下がっているかというこ
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