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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • 僕は忙しくない - 傘をひらいて、空を

    久しぶりに彼が参加するというので楽しみにしていた。その会合は仕事がらみで成立した集まりではあるけれど、参加者の年齢が近くて直接的な利害関係が薄いので、行って話すとなんとなく元気になる。 彼はずいぶんと多忙な職場にいて、子どもが生まれて一年くらいで、それだから、まだ来られないかと思っていた。彼は頭の回転が速く私の毛嫌いするたぐいの偏見を持たず言葉遣いが快く、時おり抑制された毒気を含み、話していてたのしい。 今日はカナツさんが来るって聞いたから来ましたと言うと彼は衒いなくほほえみ、どうもありがとうとこたえた。もてるねえと誰かが言い彼は苦笑してマキノさんは僕と話すのが好きなだけですよと説明する。色恋沙汰じゃなくってももてるって言う用法が広がればいいのになと私は思う。 ひとしきり互いの近況を話して、カナツさん忙しいですねえと私は言った。彼は視線を落としてから、持ち時間はあまり多くないですね、とこた

    僕は忙しくない - 傘をひらいて、空を
  • 新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を

    友だちの家のPCの動作がおかしいというので見にいった。だいぶ古くて起動に十分もかかる状態だったので、さしあたり彼女が必要としているDVDの再生ができるようにクリーンインストールすることにした。 彼女の仕事用の携帯電話が鳴り、彼女は私にことわって出た。はい、いつもお世話になっております。いえいえ、はい、なるほど、担当がそのようなことを申しましたか。 彼女は五分ほど電話で話しつづけた。ほとんどは相槌だった。いろいろな種類の、さまざまな重さの、一定以上の温度を保った相槌だ。彼女はそのあと、仕事にしてはいささか親しげに短く笑って、いいえ、いいんですよ、と言ってから電話を切った。 私はBIOSを確認し、それを覗いた彼女はなんだか怖そうな画面、とつぶやく。怖くないよ、これはWindowsの下に入っているソフトなんだよと私は説明する。 ディスクがかりかりと音をたてて書きこみをはじめる。私は彼女の出してく

    新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を
  • 行かないかもしれない - 傘をひらいて、空を

    台湾料理屋の前を通りすぎて、彼は言う。台湾かあ。行くかな、これから。私はこたえる。行くかなあ、行かないかもしれないね。 それから私は小さい声で言う。ちかごろ、世界のいろんなところに、私は行かないかもしれないって、そう思う。ほんのちょっと前までは、行くっていう確信はなくても、行こうと思えば行けるような気がしていた、その前は、どこに行くような気もしなかった、どこにも行けないと思っていた、今は、行けると思う、でももしかすると行かないかもしれないと思う。 彼もやっぱり小さい声で言う。僕は小さいとき、当然のように世界のどこにでも行くつもりでいた、ピラミッドとか当然行く、ジャングルにも、石造りのお城にも、馬の駆ける草原にも。 幸福な子ども、と私は感想を述べる。彼は少し笑う。 私が世界の多くの場所に行ったことがないのは、どうしても行こうとは思わなかったからだ。旅行先を決めるとき、そこを選ばなかったから。

    行かないかもしれない - 傘をひらいて、空を
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