このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。 Twitter: @shiropen2
「自分は平均以上」と勘違い 先日電車に乗っていたら、隣に中学生くらいの女の子が座っていました。かわいい子だったので、手元のスマートフォンを操作している振りをしながら、横目でチラチラと見ていました。 すると、あろうことか、彼女は席を立ってしまいました。 ジロジロ見過ぎてしまったことを反省しましたが、しかし、どうやら私の視線が気になって席を立ったわけではないようです。理由はすぐに明らかになりました。「どうぞ」と目の前のお年寄りに席を譲ったのです。 深く恥じ入りました。 気が利く、気が利かないとはなんでしょうか。 彼女は気が利く人です。一方、私は気が利かない人です。これは明らかです。でも、ここで問いたいのです(決して言い訳のためではなく)──気が利かない人は、その時、自分を「なんと気が利かない人間だ」と残念に感じているでしょうか。 きっと感じていないでしょう。なぜなら、そもそもそのお年寄りが困っ
講談社現代新書『思い出せない脳』(澤田誠・著)を読んでいるときに、ポケモンスリープを始めた。このスマホのアプリゲームは、眠りときに起動してマクラの脇に置き、自分の睡眠時間と、いつの時間の眠りが浅く、どこの時間の眠りが深かったかを計測してグラフで教えてくれる。 【写真】「仕事速いね!」と言われる人が意識している、たった3つのコツ 書いてある内容とリンクしたグラフなので、深々と見てしまった。 私は昨日はこのへんで「エピソード記憶」を覚える作業をして、このあたりでは「意味記憶」に向かってたのかな、などと眺めてしまった。 自分の脳のはたらきなのに、完全に他人事である。 脳科学のおもしろさは「自分のことなのに他人事」というところにあるようにおもう。 『思い出せない脳』(澤田誠・著)は、脳の働きのうち、とくに「記憶」に焦点を定めて書かれた新書である。読みやすい。わかりやすい。おもしろい。 脳に関しては
人生を後悔しないために知っておきたい「時間の使い方」とはどんなものか? ハーバード大学の研究結果を紹介する。 「人生を振り返ったとき、あんなにたくさんしなければよかったと思うこと、もっとすればよかったと思うことは何ですか?」こんな質問を向けられたとき、あなたなら何と答えるだろうか。 これからの人生でより豊かな時間の使い方をするためにはどうしたらよいだろうか。そんなヒントを、ハーバード大学の研究が解き明かしている。今回は、書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』から時間の使い方を考えた一説を紹介する。 ※本稿は、ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。 限りある人生で、時間をどう使うべきか?生涯に手にするお金が全額手元にある状態で人生を始める、と仮
「ずっと椅子に座って勉強しているが、一向に成果が出ない」 「プライベートを犠牲にして資格勉強に励んだものの、合格できなかった」 これらに思い当たる人は「勉強ができるようになるには、一日中ずっと勉強しなければならない」と考えているかもしれません。 しかし専門家たちは、この考えに「NO」を突きつけます。脳のためには、勉強以外のことをして過ごす時間も大切だというのです。その理由と、勉強以外にぜひするべきことを3つご紹介しましょう。 “勉強一本筋” だとかえって結果を出しにくい理由 【1】体を積極的に動かす 【2】人とコミュニケーションをとる 1. 集中力が高まる 2. 疲労をリセットして、高いパフォーマンスを維持できる 【3】入浴でしっかり休憩をとる “勉強一本筋” だとかえって結果を出しにくい理由 勉強一本筋の人が結果を出しにくい理由は、じつにシンプル。勉強以外の時間をおろそかにすると、脳の働
ここ一番の場面でいらない情報まで口走ってしまい、後悔した経験はないでしょうか。 就活の面接や上司との面談、初デートなどの際は、気合を入れてのぞみたいところですが、「脳が活発に活動しすぎていても失敗の可能性が高まる」ようです。 緊張したり脳が興奮したりすると、覚醒水準が高まり「過覚醒」状態になります。メルボルン大学のニュースルーム記事によれば、覚醒水準が高まると、人はオープンになりすぎる傾向があることが研究により明らかになったようです。 恥ずかしい・不愉快な情報までオープンにしがち研究では、参加者にデートにこぎつけるためのプロフィールを作成してもらいました。 覚醒水準が高まった人とリラックスしている人を比べたところ、覚醒水準が高まった人では自分の恥ずかしい情報や不愉快な情報、より個人的な情報まで自己開示する傾向があったようです。 さらに残念なことに、覚醒水準が高まった人の作成したプロフィール
「何もしていない時間」が健康長寿をもたらす 「毎日たくさんの予定を入れて、忙しくする。充実感もあるし脳にもいいので、いくつになってもその生活をキープしていきたい」 もしあなたがそう思っていたら、少し待ってください。 この考え方、脳にとってよくない部分もあります。スーパーエイジャー(80歳以上になっても新しいことに挑戦し続けて人生を謳歌している脳と体が老化していない人)の生活習慣で多くの人に共通していることのひとつに「リラックスする時間がある」ことが挙げられます。 「ボーッとしている時間があると脳は働かなくなるんじゃないの?」と思うかもしれませんが、実はそれは半分正解で、半分間違いです。 ここでいうリラックス時間とは、好きなことをする、お酒を楽しむ、仕事とは関係ない趣味をする、ボーッと空を見たり、風呂につかったり、好きな音楽にひたったり、カフェでゆっくり本や新聞を読むなどの時間で、大切なのは
近年では電子書籍の普及によって紙の書籍と同時に電子書籍版も発売されることが多くなりました。電子書籍は専用端末やスマートフォンさえあれば大量の蔵書を簡単に持ち運べる非常に魅力的な存在ですが、新たに昭和大学の研究チームが「スマートフォンで読書すると読解力が落ちる」という研究結果を発表しました。 Reading on a smartphone affects sigh generation, brain activity, and comprehension | Scientific Reports https://doi.org/10.1038/s41598-022-05605-0 研究チームは、34人の被験者に対して「ノルウェイの森」(書籍A)と「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(書籍B)を紙の書籍とスマートフォン上の電子書籍のいずれかの形式で読ませ、内容に関する複数の質問に回答さ
出社したらすぐエンジンがかかり、集中して短時間でテキパキ仕事を片づける──。誰もが憧れるけれどなかなかなれない「デキる人」。でも、脳のクセと仕組みを知って活用すれば、あなたの仕事も見違えるようにはかどるかもしれません。 出社したらすぐエンジンがかかり、集中して短時間でテキパキ仕事を片づける──。誰もが憧れるけれどなかなかなれない「デキる人」。でも、脳のクセと仕組みを知って活用すれば、あなたの仕事も見違えるようにはかどるかもしれません。脳の7つのクセを追いながら、仕事の効率化のワザを見ていきましょう。 【関連画像】 ●「やらなくちゃ」がぐるぐる回るだけ 「頭でやろうと思っても着手できないのは、脳がそういう仕組みだから。思ったときに脳の中で活動するのは、言語をつかさどるウェルニッケ野やブローカ野で、これは意欲や行動には直接つながらない。単に頭の中で『やらなきゃ』がぐるぐる回っている状態になりま
“ちっぽけな自分”を感じるとき、脳は活性化する 果てしなく広がる空の下で「この広大な宇宙に比べたら自分はなんて小さな存在なのだろう」と思う。あるいは、登山をして頂に立ち、360度に広がる空の下で他の山々の連なりや雲海を見渡し、“ちっぽけな自分”を感じる。 このような、大自然や大宇宙の悠久さや広大さを前に、自分の存在の小ささを感じる体験を、脳科学ではAwe(オウ)体験といいます。 このAwe体験をしているとき、その人の脳はとても活性化していることが多くの研究から明らかになってきています。 カナダ・トロント大学のステラー博士らの研究では、「Awe体験は自分を最小化し、それが謙虚になることにつながる」という仮説を立て、それを延べ977人の被験者の協力のもとに検証しています。 その結果、被験者が「Awe体験によって世界が違って見えた」「Awe体験によって生かされている感じがした」と答えるなど、Aw
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脳には年をとっても衰えない底力があることが、さまざまな研究から明らかにされている。中には、年をとるほど向上する能力もあるという。諦めるのはまだ早い。知られざる脳の可能性の最新研究報告。 【この記事の画像を見る】 ■言語力、空間推論力など、4種で高齢者が優る 「年をとれば物覚えが悪くなり、頭の働きが鈍くなるのは仕方ない」という既成概念を覆し、人の脳には加齢に抗する底力があることが近年の脳研究で明らかになってきた。脳は高齢になっても可塑性(自分とその周辺の状況に応じて変化する能力)を維持し、誰もが加齢に従って認知力の低下を体験するとは限らない。逆に中年以降に高まる能力もあるということなのだ。 研究者に加齢と脳の関係を再考させるきっかけとなったのは、約5000人を対象に加齢による脳の様々な変化を半世紀以上も追跡調査してきたワシントン大学の「シアトル縦断研究」。認知力を測る6種のテスト中4種で、高
Elon Musk(イーロン・マスク)氏が率いる米Neuralink(ニューラリンク)のBMI(Brain Machine Interface)技術について、「MinD in a Device」共同創業者で脳神経科学者である渡辺正峰氏は「極めて先進的」と高く評価する。その一方、脳への情報書き込みに重大な問題を抱えているとも指摘する。問題の中身や解決策のアイデアについて渡辺氏に聞いた。(聞き手は今井拓司=ライター) Neuralinkが採用した脳への情報書き込み手法は原理的な問題を抱えています。情報書き込みは、電極にわずかな電流を流し、周囲のニューロンを発火させる方法が一般的で、同社もこれを採用しています。 問題となるのは、電極周囲のニューロン以外に発火してしまう「あるもの」の存在です。このことを指摘し、従来手法による脳への高密度の情報書き込みに警鐘を鳴らしたのが、米Harvard Univ
「あれっ!こんなところを間違えてるよ」―。パソコン画面上で何回も確認して間違いがなかったのに、紙に印刷すると原稿のミスが...。こんな経験をした人も多いはず。だが、その理由がよく分からない。もちろん、できる限り間違いを減らし、仕事はスムーズに進めたい。紙と画面の違い、その使い分けを考察してみた。 「反射光」と「透過光」 画面よりも紙のほうが、間違いに気がつきやすい。これは私が今まで何度となく経験してきた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークを始めてからは、自宅などにプリンターが無かったり、あってもその能力不足で印刷に手間取ったり。だから、紙でのチェックを怠りがちになり、ミスが生じて後で大きなしっぺ返しを食らう。 情報処理学会の研究報告(注)が、紙と液晶ディスプレーにおける「反射光」と「透過光」の性質の違いなどに着目し、実験を行った。反射光はいったん紙に反射してから目に入る光、
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