本書『結論は出さなくていい』を一言で言い表すなら、現代を支配する浅薄でしかも強固な固定観念を打ち破るための、知的誠実さによって貫かれた、「脱構築」の指南書である。 ここで言う「脱構築」とは、著者曰く、「自らの拠って立つところを自覚し、その足場を相対化し続けること」であり、もう少し分かりやすく言えば、本書は、資本主義社会を前提とする一元的な価値観によって自縄自縛になっている我々現代人が、どうすれば再び自分自身を取り戻し、真の意味での自由を手に入れることができるのか、その答えを追い求めた一人の敏腕プロデューサーの人生の軌跡である。 本書の中で、著者は次のように語っている。 『僕はひとつの思想などと犬死はしない。だが、思想を変える自由を奪われることには死んでも抵抗する』。おそらくは哲学者ニーチェの言葉と記憶するが、言い得て妙だ。結論を出すという不自由さから逃れた時、人は自由になれるのだ。思考の運