Semiotics for Beginners -初心者のための記号論- Daniel Chandler (University of Wales) はじめに(Introduction) あなたが本屋に行き、記号論の本は何処かと聞いたら、ぽかんとした表情に出会うことになるだろう(訳者:日本では、社会科学の本をおいてある本屋なら、そのようなことはありません)。もっと悪いことに、記号論とはなにかと聞かれるだろう。その質問は、初心者用の手引書を探しているあなたにとっては、少々厄介なものになる。もし、記号論について多少知っていたとしても、事態は少しも良くならない。というのは書店で使われているような簡単な定義を与えることは難しいからである。もし、そのような状況を経験したことがあるなら、聞かない方が賢明であることに納得するだろう。記号論はどのようにも定義できる。最も短い定義は、記号の研究である。それは
私たちは,科学的,哲学的,あるいは,宗教的などなど,なんらかの「ものの見方」にしたがってものごとを見る。現象学とは,こういうなんらかの見方でものを見る以前に,私たちの意識はそのものをどう経験しているかを分析しようとする哲学である。ドイツの哲学者エドムント・フッサール(Edmund Husserl, 1859-1938)が提唱し,現代哲学に大きな影響をあたえている。 たとえば,かれはこの著作で次のように論じている。ガリレオの落体の法則によると,重さがちがう物体も同じ速度で落下する。ニュートンの慣性の法則によると,運動している物体は外部から力が加わらないと,同じ運動を続ける。現実の世界では,気圧や摩擦の影響で鉄は紙よりも速く落下するし,氷上で物体を滑らしてもいずれ停止する。自然科学の大きな成果を目にすると,私たちが現に住んでいる世界は雑音や不純物に満たされていて,自然科学の法則がそのままなりた
以前に、「シネクドキ(提喩)の位置づけ」で、瀬戸賢一の“認識の三角形”を示した。また、「認識の三角形に立ち戻って」では、同氏の「認識のレトリック」を読んだ感想として、メトニミーとシネクドキに対応するかたちで、メタファーaやメタファーbなどが分けられるのではないかと触れた。さらに、「アイコン・インデックス・シンボルとレトリックとの対応」では、京都産業大学の卒業論文から、「アイコン−メタファー」、「インデックス−メトニミー」、「シンボル−シネクドキ」の対応を紹介した。 ところで、瀬戸賢一の「認識のレトリック」を読み返していると、認識の三角形とパースの記号の三分法の対応ということで、3つの三角形が示されていた(p205)。その意味するところをまとめたのが、以下の図である。上に紹介した京都産業大学の卒論と同じ対応関係となっている。 このような対応を考えることは、その背景となっている関係性からして、
《記号とは、つねにある固定された意味を示す。赤信号は「停まれ!」の意味である。シニフィアンとは、底に横たわる絶え間なく変化するシニフィエを示す。結果として固定された意味について語るのは困難である。意味は、この個別のシニフィアンが使用される、より大きな言語学的かつ社会文化的なコンテクストによって決定される。》(ポール・ヴェルハーゲ) 医療診断学において、症状は、底に横たわる障害を指し示す記号として解釈される。その記号は、孤立化されると同時に一般化される。臨床的な精神診断学においては、われわれはシニフィアンに直面する。そのシニフィアンは、患者と〈他者〉とのあいだのその折々に見合った相互作用において絶え間なく移動する意味をもっている。(……) 臨床的な精神診断学の問いは、「この患者はどんな病気を持っているか?」というものではそれほどなく、むしろ「この症状は誰に、何に、差し向けられているのか?」と
Semiotics for Beginners -初心者のための記号論- Daniel Chandler (University of Wales) 記 号(Signs) 我々は、意味を作る欲望に動かされている種のように思われる:我々は、まさしくホモ・シニフィキャンズ (Homo sinificans)、意味の作成者である。特徴的なことは、我々は‘記号’の生成と理解を通して意味を作り出すことである。まさしく、パースの言う通り‘我々は、記号でのみ思考する’ (Peirce 1931-58, 2.302)。記号は言葉、画像(images)、音、匂い、味、動作やものの形をとるが、それらは本来意味を有しているものではなく、それらに意味をまとわせるとき記号となる。‘記号として理解されなければ、なにものも記号ではない’とパースは言っている(Peirce 1931-58, 2.172) 。なにものも誰か
ひさしぶりに読書感想文を書きます。 題材は、ダニエル・ブーニューの『コミュニケーション学講義』。これは、急激に変化しつつある現代のメディア環境およびコミュニケーション環境に身を置く人間にとって、間違いなく必読の書であります。 メディオロジー、というと日本ではレジス・ドブレの名前ばかりが知られていますが、いやはや。実はそこにはダニエル・ブーニューという、ドブレにまさるとも劣らない「巨大な」知性が実は隠れていたのです(たんに日本で知られていないだけですが・・・)。本書を読めばわかるように、その理論的な射程の広さや深さだけでなく、それをわかりやすく具体的な事例を交えて説明していく手際にも、まさに超一流の知性と呼ぶにふさわしいものがあります。 ただ僕自身には、メディオロジーにおけるブーニューの位置、についてはいまいちつかめない部分があります。事実的経緯としては、本書の監修者解説にあるように、ブーニ
Ⅱ 記号の基本的性質 4 記号過程を重視するパースの記号論 「アメリカ合衆国が生んだ最も多才で、もっとも深遠なそして最も独創的な哲学者」といわれるチャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Pierce,1839-1914)は、ソシュールと同じような時期に記号論を創設し、多くの著作を残しました。パースは、哲学者であるとともに、論理学者、数学者、物理学者、化学者であり、ソシュールとは異なり、記号とそれが指し示す対象を記号を受け取った人がどのように関係づけるか、その「記号過程」に重点をおいて研究しました(米盛祐二『パースの記号学』)。パースは自然科学系の学者であり、記号と対象を結び付ける解釈項は推論であり、演繹、帰納、仮説推論といった数学的概念で分類しています。その記号論も、エンジニアである我々にはある種の親近感が持てるものがあります。 4.1 パースは記号を3要素モデルで
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